エゾサンショウウオ

分類:脊椎動物門両生綱有尾目サンショウウオ科サンショウウオ属
学名:Hynobius retardatus
英名:Ezo salamander

エゾサンショウウオは、日本固有種で、北海道 (島は除く)にのみ分布しています。体色は、全身が茶褐色か黒褐色で、金色の紋様を持つ場合もあります。成体(全長10-15cm程度)は、山麓の森林に棲むものが多く、昆虫・クモ・ミミズなどを食べ、繁殖期になると沼・池・湿地などの止水に産卵します。繁殖期は、雪解け後の4月から5月が普通で、地域によっては7月中旬頃になる例もあります。卵嚢は螺旋状で、対を成す卵嚢の片側には20-80個の卵が含まれます。孵化したばかりの幼生も肉食性で、えさが少なくて幼生が過密な場合、共食いがよく見られます。比較的低温の山間部に棲む集団では、年内に変態することができずに幼生のまま1年越冬し、2年目に変態する個体も見られます。その昔、寒冷倶多楽湖(くったらこ)の個体群は、外鰓を持つ幼生の姿のままで性成熟する「幼形成熟(ネオテニー)」の貴重な例とされていました。しかし、最近では幼形成熟の報告がなく、残念ながらこれらの個体群は絶滅したと考えられています。

エゾサンショウウオの幼生(全長:約25-70mm)では、同種個体が高い密度で存在するか、餌となるエゾアカガエル(Rana pirica)の幼生(全長:約18-45mm)が混在する場合に、共食いや捕食に有利な「頭でっかち型」形態の個体がみられるようになります。この時、エゾアカガエルの幼生には、エゾサンショウウオの形態変化に対応するかのように、頭部の大きく捕食されにくい形態を持つ個体が現れます。また、両種の共通の捕食者であるオオルリボシヤンマ (Aeshna nigroflava) のヤゴ(全長:約18-55mm)がいる場合、エゾサンショウウオとエゾアカガエルの幼生には、尾びれの高さが大きい「防御型」形態の個体が現れたりします。このような形態変化は「表現型可塑性」の一例と考えられていますが、エゾサンショウウオの幼生は、「表現型可塑性」の誘導が比較的容易で、個体数も確保しやすいことから、「表現型可塑性」の研究に有利な実験生物と言えます。

外因性内分泌撹乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)は、「動物の生体内に取り込まれた場合に、本来、その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質」(環境庁SPEED98)などと定義されています。しかし、これらの環境ホルモン作用が疑われている化学物質には、内分泌撹乱以外の作用も最近報告されるようになってきました。竹内研究室では、環境ホルモン研究の一環として、「環境ホルモンが表現型可塑性を撹乱するかも?」という疑問を、エゾサンショウウオの幼生で検証しようと実験を進めています。

図1 エゾサンショウウオの成体

図2 エゾサンショウウオの幼生

図3 エゾアカガエルの幼生

図4 オオルリボシヤンマのヤゴ

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