動物の卵子はその外側をタンパク質でできた膜に被われて排卵されます。この膜は卵膜(egg envelope)と総称されますが,哺乳類では透明帯,両生類では卵黄膜,魚類ではコリオンというように違う名前で呼ばれています。鳥類の卵子でこれらに相当するのは卵黄膜内層と呼ばれる繊維状の膜です。
哺乳類の透明帯には同じ種の精子と高い親和性で結合する分子が存在し,精子受容体 (sperm receptor)と呼ばれています。また、精子側にも透明帯タンパクを認識して特異的に結合するリガンドタンパクが存在しています。私達は鳥類の卵黄膜内層がいくつかの糖タンパク質を構成成分としており、この中のZP1およびZP3と呼ばれる分子が精子と相互作用し、活性化することを明らかにしましたが、精子側のリガンドタンパクの本体はまだわかっていません。
鳥類の卵管には、交尾後に卵管内に侵入した精子を長期間貯蔵し、生存させるための精子貯蔵管 (Sperm Storage Tubules; SST) と呼ばれる組織が存在しています。すなわち、鳥類では、一度交尾を行えば、精子がSST内で長期間生存したまま貯蔵されるので、その後交尾を繰り返さなくても、受精卵を産み続けることが出来るのです。(七面鳥で約70日間、ニワトリで約2週間、ウズラで約10日間)。この鳥類特有の現象は古くから知られていますが、いかにして精子がSST内に侵入し、いかにしてSST内で長期間生存し、そして、いかにしてSSTから放出されて受精に至るのか、それらの分子機構はほとんど理解されていません。
私達の研究室では,鳥類の受精機構の解明を目指し,卵黄膜内層に存在する精子受容体および精子に存在するリガンドタンパクの同定およびその発現調節機構の解明と、雌側で受精を制御している卵黄膜内層の形成機構を調べる研究を行っています。そして鳥類特有の現象として、精子貯蔵管の機能に注目し、精子貯蔵管がいかに精子を引き寄せ、生存させ、そしていかにして精子を再び放出させるのかを調べる研究を行っています。