様々な環境中の生物群、特に微生物叢がもつ隠された、ヒトの役に立つ機能を探し出し、利用する事を目指した研究を行っています。特にセルロース系のバイオマス利用にフォーカスを当てた研究を展開していく予定です。
微生物機能を利用したリグノセルロース系バイオマスの利用技術開発
木材バイオマスなどの植物の細胞壁には、セルロースやヘミセルロースと言われる多糖成分と、リグニンと言われる芳香族高分子成分が主要成分として含まれています。セルロースなどの多糖成分は、加水分解(糖化)することによりグルコースなどの単糖に変換することが出来、単糖は微生物機能を利用してエタノールなどのエネルギー物質や、それ以外の様々な有価物に発酵変換することが出来ます。しかし、木材から多糖成分のみを取り出すには、アルカリや酸を用いて高温下で反応させるなどエネルギーや薬品を投入しリグニンを除去する必要があり、環境負荷がかかります。
では、環境融和型の処理である微生物を用いたらどうでしょうか。リグニンは、植物に剛性を与え、化学的にも安定な化合物です。このリグニンのちからにより木材は大きく育ち、強靭で長持ちする材料となるわけです。なので、多くの微生物ではリグニンを分解する事は難しいとされています。しかし、白色腐朽菌と呼ばれる微生物は、リグニンを分解する能力を持ち木材中のリグニン量を大きく減らすことが出来ます。きのこの仲間には、木材を腐らせて栄養源とし生育する木材腐朽菌が多いですが、その中でも(黄色〜褐色の)リグニンを分解し、その後にゆっくりと(白色の)セルロースを炭素源として利用するため、白っぽく腐った木材を残渣として残すタイプの木材腐朽菌を、特に白色腐朽菌と言います。
白色腐朽菌はリグニンを分解・無機化し、多糖を利用するための優れた生分解システムを持っています。しかし、エネルギーと薬品を用いる物理・化学的な処理法に比べるとその分解効率は非常に悪く、実用的・商業的に利用できるほどの活性ではありません。ですが、白色腐朽菌の木材腐朽機構、特にリグニン分解機構についてはその制御機構をはじめとして、良く解っていない事がまだまだ残されており、隠された能力を見つけ出すことによりリグニン分解活性を大きく改善できる可能性があると考えています。その方法として、幾つかのテーマを設定して日々研究に勤しんでいます。