投稿者:棚橋 希代子(旧姓 内藤)(平成12年 情報学部情報社会学科卒)
「この道を通るのは生まれて初めて。だって以前はここに道がなかったから。」
私は2007年から2009年の2年間を、独立行政法人国際協力機構(JICA)が派遣する青年海外協力隊員としてスリランカ(旧セイロン)で過ごしました。インドの南東の海に浮かぶ、北海道を少し小さくしたほどの島は、当時北部・東部で2つの民族が内戦をしていました。そうした状況においても、私の出会った人々はみな穏やかで温かく、人とのつながりを大切にしていました。
私は、スリランカ政府が日本の資金協力を得て行った、主都コロンボの近郊に広がる低所得者層の居住地域の環境改善事業に携わりました。ごみがたまり、大雨が降ればあふれ、伝染病が蔓延する原因となっていたドブ川を水路化し、周辺の掘建て小屋の住民など延べ2800世帯を移転や改修させて道を整備するといった大規模な事業でした。8年におよぶ事業期間のうち、私の関わった最後の2年間は、建設工事が徐々に完了を迎え、風景が目に見えて変化しました。これは何よりもスリランカ人の上司・同僚たちが、時に反発する住民たちと地道な話し合いを重ねてきた賜物だったと思います。
ある日、新しくできた道を、地域の子どもたちと歩きながらその先の小売店に行った時、一人の子どもが私にとても嬉しそうに言ったのが上記の言葉でした。その時、道ができることで地域の人たちの交通、ひいては交流が変わるということをしみじみと実感しました。
思い起こせば大学時代、私は地理学研究室に属していました。都市の進展にともなう地域社会の変容について、先生を交えゼミのメンバーで1つの論文を深く読んだり、フィールドワークに出かけたりしたことが懐かしく思い出されます。そこでの議論、事象の捉え方、取り組み方が、私の土台になっているのだと感じます。