投稿者:原 和彦(昭和32年 工業短期大学部機械科卒)
最新鋭機のボーイング787機の相次ぐトラブルは、大事故につながる恐れがあることが分かってきた。787機は鳴り物入りで登場して2年、日本製の国産部品が35%を占めているそうで、日本企業の再生が期待された航空機である。
従来機に比べて電子部品がはるかに多く、電気飛行機と揶揄されているくらいである。
今回問題になっているリチューム電池は、ボーイングから示された評価基準に合格したことでメーカーは出荷したとのことである。原因は電池が振動に弱く、発火を起こしたのではないかと発表されている。 従来、信頼性を高めるためには、信頼性試験や寿命試験で、たくさんの製品を使って品質の安定化を図っていたはずである。
大学では、「専門技術(電気、機械、化学など)」を学んで企業に入るのだが、肝心なことは正しい「評価技術」を知らないのである。
企業では、信頼性を評価するために、統計学を活用した試験や検査で、不良率や故障率を求めているが、このようなや評価は、企業内の工程品質であって、市場における品質の評価にはなっていない。したがって、大学や企業では評価技術がわかった技術者を育成することが大切である。
ここでいう「評価技術」とは、顧客のほしい機能について、専門技術を使わずに、市場における信頼性を評価することである。そのためには、システムの品質特性(スペック)ではなく、技術の基本機能を考えることが大切である。
品質工学(タグチメソッド)では、システムのあるべき姿を「理想機能」と定義して、市場品質の安定化を「機能性評価」で行うのである。
機能性評価では、システムの入出力エネルギーの変換を理想機能と考えて、「理想機能からのずれ」を市場における品質と考えて「SN比(注1)」という評価尺度で表す。この評価尺度で市場品質の未然防止を行うのである。
上述の電池の機能性評価は、充放電特性について、使用環境条件(温度や振動)や劣化のノイズを強制的に与えて、SN比で評価すればよいのである。
今回発火の原因を調べているが、機能性評価でノイズを強制的に与えれば発火の原因は分かるのである。
また、信頼性評価だけでなく、事故が起きたときに被害が最小になるような「安全設計」を行うことも大切である。安全設計では「故障率100%」と考えて、事故が起こる前に、温度や電流を感知するヒューズで発火を未然に防ぐことが大切である。
戦略的技術者とは、事故が起きてからの「もぐらたたき」で問題を解決するのではなく、「モノを作る前に、品質を創る」技術者のことである。
専門技術による科学的思考も大切であるが、評価技術のような技術的思考でものづくりを考えることが重要なことである。そのためには、CAEを活用して試作レス・試験レス・検査レスで、直交表を活用してn=1で「ロバスト設計」を行うことが大切なのである。
JAXA(宇宙開発機構)は1998年に、ロケットの打ち上げを失敗して以来、最近では、HⅡA形ロケットで成功を収めていることは、筆者の指導による下記のような品質工学の活用が大いに貢献しているのである。
(1) ロケット用エンジンのターボポンプ難削材の高速機械加工
(2) ロケット、宇宙機の誘導プログラムに関わる最適化
(3) 搭載機器データからの故障判定機能の設計
ロケット航行中の故障の種類などを変えて様々な故障シミュレーションを 行い、故障の検知を行い正常時におけるセンサの誤差の評価などさまざまな分野で品質工学を活用して未然防止を行っているのである。
品質工学の応用は工学の分野だけでなく、医学、薬学、生物学や不動産鑑定などの社会的な問題に活用されているのである。
デミング博士は晩年、品質管理の考え方(CpkやZD(ppm管理)やシックスシグマなど)を永久に止めて、品質工学(タグチメソッド)を用いることがベターであると述べられていたことを追記しておく。
注1:「SN比」は顧客のほしい機能とほしくない機能の比で表す。