投稿者: 藤田 幸宏(昭和54年 工学部 電気工学科卒)
先日の台風19号は、東日本を中心に多くの河川が氾濫し、甚大な被害をもたらしました。地球温暖化の影響か、日本近海の海水温が上昇し台風は勢力を維持したまま上陸するため、古くから住むその土地の人でさえ思いも寄らぬ事態が発生しています。「災害から身を守るには、これくらい備えれば大丈夫だという思考停止の状態にならずに、これくらいのことが起きそうだ、さらにその上にはこんなことも起きそうだという想像力の幅を広げることが大切だ。」ということを、以前の講演で元静岡大学防災総合センターの林能成先生がおっしゃっていたことを思い出します。
最近は到底やりませんが、以前はついつい酒が進んでさて家に帰ろうと駅に向かうと最終電車の時間はとっくに過ぎ、「さてどうしたものか、天気も良いので歩いて帰るか」と、真っ暗闇な中20kmを超える道のりを歩いて、朝方へとへとになりながら家に着き、後悔したことが何度かあります。こうした普段はやりそうにない行動の裏には、実は脳とアルコールの不思議な関係があるとのことです。ヒトのからだと脳の働きを研究している自然科学研究機構生理学研究所の柿木隆介教授によると、「脳には、脳にとって有害な物質をブロックする『血液脳関門』、いわば脳のバリア機能を果たす器官があり、アルコールはこの脳関門をやすやすと通過し、脳全体の機能を一時的に”麻痺(まひ)”させる。」とのこと。アルコールによる影響が出やすいのは前頭葉、小脳、海馬の3つ。前頭葉は人間の思考や理性の制御、いわゆる理性のガードマン、小脳は運動機能の調節、海馬は記憶の保存をつかさどっている。そのひとつ前頭葉は、アルコールが入ると徐々に理性のガードマン的な役割から解き放たれ、結果的にコントロール機能が低下する。普段なら絶対に言わないことをしゃべり始めるのは、前頭葉が麻痺し始めた典型的な状態だそうです。行動は人によってさまざまだそうですが、やたら大きな声でしゃべる、下ネタを話す、酒の席でよくありがちな「ここだけの話……」もまさにこれ。アルコールによって”解放された”前頭葉は、どこまでも人をおしゃべりにさせるようです。「ただ、「酒の席だから」と笑っていられるのは、かなり酔っ払った本人だけ。さほど酔っ払っていない人は、常に冷静な目で酔っ払いを観察している。評判を落とさぬよう、今一度、酒との付き合い方を見直してはいかがだろうか。」と、柿木教授は言います。
人間、年齢とともにいろいろな失敗を重ね、その都度いろいろなことを学んで、自分を制御できるようになってきますが、この制御もお酒を飲んで酔いが回ってくると次第に怪しくなって、ついつい言わなくても良いことまで口から出てきて、周りの人を不快にさせることになります。ただ言った本人は全然覚えていないので始末が悪い。そうならないためにもお酒は節度をもって飲むようにすればいいのですが、グラスにお酒を注がれるとついつい飲んでもう一杯となって、同じような失敗を繰り返すはめになり、必然的に山の神に頭が上がらなくなっていきます。もっともたまには気の置けない仲間と大いにお酒を飲んで、大いに騒いで、楽しむことも必要ではないかと思います。これからもいつまでもお酒をおいしく飲んで、楽しんでいきたいなあと思って、ふと棚の焼酎のビンを見ると中が空っぽ。おっ、今日は山の神の機嫌も良さそうだ、拝んで見るか。やれやれ、人生楽しむのもなかなか大変です。でも「ああでもない、こうでもない。」と山の神から文句を言われながら飲むお酒もまたおいしく感じるから不思議です。