【第199回】同窓会会長を拝命するにあたって

      【第199回】同窓会会長を拝命するにあたって はコメントを受け付けていません

投稿者:河合 利夫(浜松工業会会長/昭和41年工学部機械工学科卒)


私が静岡大学工学部に入学いたしましたのは、昭和37年のことでございます。当時、浜松市鴨江にございます20室ほどの下宿に身を寄せ、学生生活をスタートいたしました。その下宿には、本田技研工業に勤務されている方々が多く住まわれており、私は日々、彼らとの交流を通じて、ものづくりに対する真摯な姿勢や情熱に触れることができました。

特に印象深かったのは、本田宗一郎社長が隔日に行っておられた講話の内容を、下宿の皆さんから熱心に語っていただいたことです。若き日の私にとって、それは単なる雑談ではなく、技術者としての志を育む貴重な学びの場でありました。

中でも、私の心に深く刻まれているのは、以下の三つの教えでございます。

第一に、スーパーカブの信頼性に関する考え方です。スーパーカブは「壊れないバイク」として世間から絶大な信頼を得ていました。本田宗一郎さんは「壊れるなら一斉に壊れる方がよい」と語られました。この言葉を受けて私は、「丈夫すぎる部品の性能を調整し、弱い部分を強化することで、全体としての信頼性を高めるべきだ」と考え、自動車開発に取り組んでまいりました。

第二に、バイクCBのスピードが出すぎることが問題視された際のご発言です。当時、CBは「速すぎて危険だ」との批判もあったようですが、本田氏は「問題は、速く走れることではなく、走る・曲がる・止まるといった基本動作が、操る者の意志通りに行えるかどうかである。スピードの追求をやめれば、技術の進歩も止まる。」と述べられたと聞いております。この言葉には、技術の本質を見抜く鋭さと、挑戦を恐れない姿勢が表れており、私自身も深く共感いたしました。

第三に、マン島レースへの挑戦です。本田氏は「2年以内に優勝する」と明言し、その実現のために必要な人材と資金を惜しみなく投入されました。そして実際に、2年後には見事優勝を果たされました。このエピソードからは、目標を明確に掲げ、それに向けて全力を尽くすことの大切さ、そして実現のためには人と資源をしっかり投じる覚悟が必要であることを学びました。

これら三つの教えは、その後の自動車開発における座右の銘となり、幾度となく困難に直面した際にも、私の底流に流れるこの言葉が心の支えとなってまいりました。