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当研究室について

農村福祉社会学研究室では農村の社会や生活を社会学的に考察します。では、社会や生活について社会学的に考えるとはどのようなことでしょうか。たとえば高校までの「社会科」では、社会の仕組みや制度、歴史的な出来事、地理的現象を知ることに重心がありました。それに対して「社会学」は、「なぜ社会はこうなっているのだろう?」、「なぜ人はかならずしも望みどおりに生活できないのだろう?」、「それを邪魔しているのは何だろう?」と現実への疑問をもつところから始まります。そして、社会を構成する要素である、個人や家族、集団・組織、政治・経済・技術・文化的な状況やその変化に着目しながら、社会や人々の生活(=現実)にかんする疑問を解明してゆきます。
 農村やそこでの生活を理解する際には、生産者としての地域住民だけでなく生活者としての地域住民に着目したり、生産だけでなく消費(あるいは消費者)に着目する必要があります。また地縁・血縁関係やジェンダー関係などの社会規範、都市住民の意識や生活スタイル、あるいは農業振興・教育・医療・福祉に関する公的制度や政策、移民労働者やTPPといったグローバル化にともなう世界的な動きなど、人々の行動に影響を及ぼす社会的事象を理解することも重要です。そうすることで、農村の生活の質的側面や地域の持続可能性を幅広く考察することができるでしょう。人々が「安心して暮らし続けられる」ことが広い意味での「福祉」であると考えるならば、なおさらこれらの考察は重要となります。 本研究室では、主に農村を対象にして、地域社会とそこでの人々の生活にかかわるテーマを学生自身が自分の関心に合わせて研究テーマとして設定し、自分で研究を進めてゆくというスタイルをとります。学生主導の研究を教員がサポートしますので、学生には好奇心や研究を継続する意志が必要です。研究手法としては、地域でインタビュー調査やアンケート調査を行い、その結果と公的統計や文献などを組み合わせながら考察を深めることになります。
 テーマの例としては、農業の担い手の高齢化、外国人研修生の受け入れ、安全で安心な食料の供給、耕作放棄地の増加、集落の高齢化・小規模化、水源や林道の管理、保育園や小中学校の統廃合、地域での雇用の場づくり、新規移住者の受け入れ、祭りの継続、公共交通網の維持、通院・買い物の困難さ、介護と仕事の両立などが挙げられます。  研究の一例を挙げると、安全で安心な食料の供給を行う際には、肥料や品種、栽培・加工・保存などについての知識が必要ですが、それだけでなく、流通・販売経路の多様化や、消費者の意識についての知識も必要です。たとえばある農家が有機農業を開始するきっかけは、「収入の増加を目指したい」という個人的動機かもしれませんが〔←インタビューやアンケート調査から分かる内容〕、その背後にはグローバル化の下で農産物の価格低下が生じたという社会経済的変化〔←統計や文献から分かる内容〕や、消費者の嗜好の変化〔←インタビューやアンケート調査、文献、統計などから分かる内容〕があるでしょう。この農家は地域で勉強会を開いたり、公的制度を利用したり、農協やスーパーや市民団体などと協力関係を結ぶなど、自らの思いの実現に向けて地域の意思決定方法やネットワークを新たにしたかもしれません〔←地域での調査を継続することで分かる内容〕。
 このように、農業にかかわる知識を踏まえつつ、地域の人のつながり(社会的関係)や社会的条件を分析することをとおして、「社会(地域、日本、世界)で今、何が起こっているのか」を理解してゆきます。そしてこのような社会的な分析視点を身につけることにより、農業や農村の新たな可能性を引き出したり、農村での生活をより快適で持続可能なものにしてゆくための新たな道筋が見えてくることを目指します。これらの事柄に関心をもつ人は当研究室で研究してください。

 

静岡市梅ヶ島の集落 富士宮市芝川の集落 スウェーデンでの住民による保育園づくり