電気接点の接触現象

・背景

 電気接点対を安定に低い接触抵抗で接触させることは、多くのデバイスで要求される性能です。
 電気接点の接触抵抗は接触力を強くすると小さくなります。また、接点表面が清浄な状態にあり、金属同士が接触していれば、安定に低い接触抵抗を維持できます。しかし、実際に電気接点が使用される環境では、接点表面には酸化被膜を汚損被膜などの高抵抗の物質が存在し、接触抵抗が高くなる要因になります。多数の動作を繰り返すと、接点表面の形状は滑らかな状態を維持できません。
 言い換えると、接触力さえ高くすれば、金属同士の接触抵抗は小さくなり、高抵抗の被膜も除去されやすくなり、安定な接触状態を維持できます。しかし、実際のデバイスでは、小型化・低コスト化が重要です。小型化すると接触されるためのバネの力が弱くなり、接触抵抗が高くなるため小型化には限界があります。安定な低い接触抵抗の維持と、小型・低コスト化はトレードオフの関係にあります。
 そこで、いかにして弱い接触力で安定な接触状態を得るためには、その接触状態の正確に知る必要があります。接触面の状態は、表面形状と表面の組成とによって決まります。表面の組成を変えない条件が得られれば、表面形状の違いだけによる接触抵抗の違いを知ることができます。そこで、本研究室では接点表面形状を変えた場合の接触抵抗の変化について研究しています。

・測定結果の一例

 自作の接触抵抗-荷重特性測定装置を用いて実験しています。

上の測定例は、鏡面研磨した銀接点対を接触させたときの結果です。
荷重を大きくすると、接触抵抗は荷重の-1/3乗で減少しています。
この結果は、接点材料の弾性変形により接触面積が広がっていることに対応しています。
より荷重が大きくなると、接点の塑性変形が始まり、接触抵抗は荷重の-1/2乗で減少すると予想されます。

・接点表面の粗さと接触抵抗の関係

 接点材料として純銀の接点を使用し、研磨紙で表面粗さを変えることで、ほぼ清浄でありながら、接点表面の形状を変えることができます。その状態で接触抵抗の測定を実施しています。レーザー変位計を用いて数百ナノメートル以下の接点の変形を、接触抵抗と同時に測定しています。 接触抵抗測定前後の接点表面の状態を電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、レーザー顕微鏡などで観察・分析しています。

参考文献:篠村公介・関川純哉、”銀接点対の接触前後の表面形状の分析,” 信学技報, vol. 122, no. 416, EMD2022-21, pp. 7-10, 2023年3月.