1.速い光
光の速さは、真空中ではただ1つ=299792458m/sである。しかし、物質中ではいろいろな速度が現れる。なかでも、波束の伝播速度はさまざまな物理現象を記述する基本的な概念の1つある。冷却原子、微小共振器やフォトニック結晶など光の波長オーダーの微細構造の作製技術の進展を背景に、分散を操作し、光パルスの伝播を制御しようとする試みが進められている。これらの研究分野は「速い光(fast light)」、「遅い光(slow light)」と称される–。パルスのピークが真空中および物質中で距離Lを伝播するのに要する時間をTVおよびTMとする(図1)
TM <TV | 超光速(速い光 |
TM <0 | 負の速度(速い光)、 |
TM >>TV | 遅い光 |
TM=∞ | 光の凍結 |
「遅い光」は、媒質と光の相互作用を大きくし、光の情報の保持、量子的な情報処理、非線形光学効果などの応用から関心を集めている。一方、「速い光」は真空中の光速度よりも媒質中の群速度が大きい、もしくは負の光の群速度を意味している。負の伝播速度では、光パルスのピークが媒質に入射するよりも速く、媒質から出射してくるという一見奇妙な現象を引き起こす。速い光は、特に、相対論や因果律との関係から議論されてきた。
参考
・Physical Review Letters 94, 223901 (2005).
・Physical Review Letters 86, 3546-3549 (2001).
・“「速い光」、「遅い光」と群速度” 日本物理学会誌(解説)、8、516-523(2013)
・光速cは変化する? 冨田 誠 パリティ 11 (2015)