プラズモン誘起透明化現象とGoos- Hänchenシフト
周波数(ω)領域の急峻な分散は、「速い光」「遅い光」など、時間領域でのパルス制御に重要な技術になっている。電磁誘導透明化現象(Electromagnetically Induced Transparency=EIT)はもっとも研究が進められている系の1つで、透明化窓の中での光速の大幅な低減、光の凍結が実現されている。誘導透明化現象のユニークな特質から、この現象は波数(k)領域でも興味深い現象を引き起こすことが期待できる。
研究室では、EITと類似現象であるプラズモン誘導透明化現象(Plasmon Induced Transparency=PIT)をAu―SiO2-Ag の Metal-Insulator-Metal(MIM) 多層膜構造をもちいて実現し、この透明化窓における急峻な波数(k)分散に起因したGoos- Hänchen(GH)シフトを観測することに成功した。PIT窓内のk分散による「GHシフト」(空間ビームシフト)は、EIT窓内のω分散による「遅い光」(時間パルスシフト)に対応する現象である。図1は全反射減衰法をもとにした実験の概念である。ビームはレンズを通過後、プリズム底面に作られたMIM構造に入射する。反射ビームの位置をレンズの焦点で観測する。図2はプラズモン誘起透明化された「窓」の中で観測されたビームプロファイルである。プラズモン共鳴はP偏光(赤線)にのみ現れるので、S偏光のビームプロファイル(黒線)を参照としてSPP共鳴によるビームシフトを評価できる。透明化窓における急峻な波数分散によってビームが正の方向にシフトしている(GHシフト)ことが観測される。
図1 ATR(減衰全反射分光)に基づいたGHシフト観測系
図2 プラズモン誘起透明化窓の中でのGoos- Hänchenシフト観測例
参考文献
・Optics Lett Optics Letters 22, 5274 (2016).
・Scientific Report 7, 17824 (2017).
・Applied Physics Letters 112, 051101(2018).