4.ピークを切除されたパルスによるパルスピークの観測
「速い光」は、異常分散媒質中でパルスのピークが真空中の光速度cよりも速く伝播する現象である。この中でも特に「負の群速度」は、パルスのピークが媒質に入射するよりも速く、パルスのピークが媒質から出射するというたいへん奇妙な現象である。
さて、もしも、負の群速度を持つ媒質に対して、入射パルスのピークが入射する前に入射パルスを遮断してしまうと、つまり、ピークの切り取られたパルスを入射すると、どのようなことが起こるだろうか。入射パルスにピークがないにもかかわれず、パルスのピークが依然として観測されるのだろうか?
研究室では、ピークを切除されたパルスによるパルスピークの観測する実験に成功した。通常のガウス型のパルスを入射した場合、出射パルスピークは、真空中を伝播するパルスよりも 速く現れ、「負の群速度」が実現されている。図4は、このような「速い光」が実現された系に、ピークを除去されたガウスパルス、すなわち、図4(a)は入射パルスを表している。図4(b)はパルスのピークよりも前方のある時刻で遮断されたガウス型パルスを入射したときの出射パルスの様子である。実験結果を見ると、入射パルスのピークが除去されているにもかかわらず出射波形には明瞭なガウス型パルスのピークが観測されている。このことは、出射パルスのピークと入射パルスとのピークは因果関係で結ばれたものではないことを示す。そして、出射パルスのピークは、既に入射しているパルスの中でピークよりも前半の部分のみから解析的に作り出されるものと結論される。このことは、パルスのピークが情報を運ばないことを明瞭に示している。そして、真空中の高速度cよりも速く伝播するパルスのピークは特殊相対性理論に反することはなく、「速い光」の中での因果律の原理によくあった振る舞いをしていることになる。
図4 ピークを切除されたパルスによるパルスピークの観測(実験結果)
参考
Physical Review Letters 112,093903 (2014).