ブロックチェーン・イノベーション2017(12/08)参加レポート

先日(12月8日)に東京・コングレスクエア日本橋で行われた、国際大学GLOCOM主催のブロックチェーンイノベーション(http://www.glocom.ac.jp/events/3182)に参加した。参加レポートをまとめた。

 

主催である国際大学GLOCOM所長の前川徹氏が開会の挨拶を行った。GLOCOMは、1991年に設立された国際大学付属の研究所だ。2016年にブロックチェーン経済研究ラボを設立し、ブロックチェーン技術の応用による社会的・経済的影響に関する研究を推進している。

 

講演セッション前半は、GLOCOM主幹研究員である高木聡一郎氏が、ブロックチェーンの概要や、現在増加しているブロックチェーンを使った様々なビジネスなどを説明した。また、日本でもICOで資金を集める動きが始まったと述べ、2017年ICOで資金調達に成功したALISなどについて言及した。

ブロックチェーンは、(1)データの連結による改ざん耐性、(2)資産管理可能性、(3)P2Pでのデータ管理・合意形成による信頼性向上と中央管理不要といった特徴がある。価値を交換できる分散型インフラ技術であり、インターネットに次ぐ汎用的技術であると高木氏は述べた。

ビットコインは取引データベースとして使われる目的だったが、スマートコントラクトはソフトウェアが動作するプラットフォームとして動作するものである。ブロックチェーン1.5や2.0として、スマートコントラクトを用いて様々なビジネスが行われている。

ブロックチェーンは、難民の方々へ渡したIDを世界で共有するときや、電力売買・土地管理・クラウドソーシングなどで使われる段階へ到達した。スウェーデンでは不動産登記で使われていると述べ、これは単なるデータベースとしての利用ではなく売買をするときにブロックチェーンの台帳が活かされるという。

現在様々な企業がブロックチェーンの実験を行っているが、大半のものはプライベート型ブロックチェーンで、クローズドである。これでは従来のシステムと変わらないと語った。

組織ではなくアルゴリズムを信頼することで、誰でも信頼できる価値交換のしくみをブロックチェーンは提供可能であると述べた。また、(1)信頼の脱組織化、(2)分散化インセンティブメカニズム、(3)経済活動の自動化によってブロックチェーンはインフラになれるのではないかとまとめた。

 

講義セッション後半は、京都大学の岩下直行教授が、分裂を繰り返すビットコイン、ICOと仮想通貨について語った。

ビットコインは最近分裂騒動を繰り返している。分裂で価格が下落するとの懸念があったが、ビットコインキャッシュへのハードフォークの後、どちらも価値が上がるという現象がおき、株式などではありえないことが起きていると述べた。また、ビットコインがこれからも分裂することに期待し、価格が上がっているのではないかとも述べた。

現在ビットコインネットワーク全体の処理能力が、増加傾向にあるトランザクションに追いついていない現状がある。日本人全員が1日1回しか決済しないとしても1日に1億件のトランザクションが発生するが、現状は30万~40万件程度で限界が来ていて、「これでは通貨システムとしては持たない」と語った。

ICOのブームが到来し、中国では週に10件もICOが実施されていたときもあったようだが、ビットコインが何かもわからないような高齢の方もとりあえず儲かると思い老後の蓄えをトークンに変えてしまうといったことがあったようだ。

ICOは国によって法規制が異なることにも言及したアメリカではSECが法律違反のものを規制し、シンガポールではテロ資金対策として規制、ヨーロッパは様子見であることを示した。一方日本では、COMSAというICOプラットフォームが現れるなどの支援がある一方、金融庁がICOに対する注意喚起を公表した。

「ICOではなくIPOなど伝統的な方法で資金調達を行えばよいのではとも思えるが、継続的に値上がりを続ける仮想通貨市場に乗っておくのもいい」と述べた。

ビットコインは様々な技術を参考にして生まれたが、最初のSatoshi Nakamoto による提案はブロックチェーンではなく“electric cash system”を目的としていた。

ビットコインが成功した理由は、次の三つであると述べた。一つ目は、コンピュータのリソースをP2Pで共有することで、高いコンピュータを必要としない点である。二つ目は、競争マイニングによる非中央集権化である。リーマンショックによる世界金融危機後、銀行に国などが介在したことを受け、中央集権に疑問を抱いたのではないかと語った。三つ目は、ビットコイン以前の電子通貨とは異なり、ドル建てや円建てではなくそれ自体の価格が変動する点で、株式のように期待し購入をするといった行動ができる点だ。

貨幣や銀行預金と比べてブロックチェーンによるデジタル通貨が勝るものがあると最後に述べた。

 

パネルディスカッション1「ビットコインの分裂と合意形成の行方」

パネルディスカッション1は、以下のメンバーで行われた。

  • 岩下直行氏(京都大学教授)
  • 首藤一幸氏(東京工業大学准教授)
  • 本間善実氏(日本デジタルマネー協会代表理事)
  • 斉藤賢爾氏(慶應義塾大学SFC研究所上席所員)【モデレータ】

 

斉藤氏から、「ビットコインの分裂と合意形成についてどう考えるか」、「コンセンサスアルゴリズムをどう考えるか」との問いかけがされた。

岩下氏は、ビットコインの価値を維持するのは無理があるとし、どこかで上手に切り替えるべきとの考えを示した。ビットコインには、皆が自由に動けるという一種の政治哲学のようなものがあるが、ビジネスや実務に必要なのは政治哲学ではなく、むしろ道具としての利便性であるとした。ビットコインのマイニングに用いられる電力は、アイルランド一国の消費電力に匹敵しており、環境に良くない点も問題であるとした。

首藤氏は、仮想通貨ではなく電子貨幣と呼びたいとした。分裂と合意形成については、相場が安定しないと通貨としては使いづらいという問題が顕在化していると指摘した。分裂は、ハッシュパワーの分散により貨幣の信頼低下につながるとした。また、ブロックチェーンを研究している立場として、自由に試す場がないとし、局所的な実験ができる仕掛けができないかと考えているとした。

本間氏は、ビットコインマキシマリストとの立場から、ビットコインにはリスクはあるが、2013年以降安定稼動しており、現状他をリードしているとした。対抗できるのは、Ethereumであるが、ビットコイン以上にスケーラビリティの問題があるとした。また、分裂したコインはアルトコインにすぎないため、ビットコインに戻るのが健全であるとした。マイナーがマイニングをしなくなるのが最大の危機だが、ビットコインでは、価格の上昇と、混むことで手数料が上がることで、維持されているとした。他に、会場からの質問として「実物資産や日本円に結びつくデジタル通貨をどう考えるか」や「政府や国際機関が仮想通貨に標準を設けることができるか」という点にも各自の意見を述べて終了した。

 

 

 

パネルディスカッション2「ブロックチェーンの応用可能性と今後の展開」

パネルディスカッション2は、以下のメンバーで行われた。

  • 杉井靖典氏(カレンシーポート代表取締役CEO)
  • 田中謙司氏(東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任准教授)
  • 宮村和谷氏(PwCあらた監査法人 システム・プロセス・アシュアランス部 パートナー)
  • 安 昌浩氏(株式会社ALIS)
  • 高木聡一郎氏(国際大学GLOCOM 主幹研究員)【モデレータ】

 

まず、田中氏、安氏、宮村氏、杉井氏の順で、用意したスライドによる説明がなされた。田中氏からは、ブロックチェーンを用いた電力供給システムを研究しており、「電力のインターネット化」を目指し、実際に電力の融通を行う実証実験を行っているとの説明があった。

安氏は、実際にICOの実施者として、開発中のALISはブロックチェーンを使ったソーシャルメディアであり、いい記事を真っ先に見つけた人にトークンを報酬として配布することで、プラットフォームにいい記事があふれる仕組みであるとした。ICOは新しい資金調達の方法ではなく、ユーザと投資家を巻き込んだ新しい事業開発の方法と考えているとし、コミュニティができて活気あふれていくことがトークンエコノミーの凄さであるとした。調達額については、少額でも調達しすぎても良くないとし、通常のベンチャーでは不要だった一般投資家対応や自主規制管理等が求められるとした。

宮村氏は、ブロックチェーンの強みは、通常の監査観点である(1)網羅性 (2)正確性 (3)正当性 (4)アクセス制御が自動的に担保される点であるとした。ブロックチェーンでの監査のポイントは、(1)プロセスレベルコントロール・ジェネラルコントロール (2)ブロックチェーンに特徴的なリスク・コントロール (3)外部接続やブロックチェーンの外からのリスク (4)提供する価値の源流となるインダストリーで重視される監査の視点 (5)自己責任で分散管理できるかというアクセシビリティが必要 という5つの観点であるとした。

杉井氏は、著書「いちばんやさしいブロックチェーンの教本」の以下エッセンスを紹介した。ブロックチェーンは、(1)合意形成されたデータのみが記録され、(2)変更不可能性を有するデータ構造を持ち、(3)ネットワーク参加者全員が同じデータを共有するという特色を持つデータベース。サトシナカモトは通貨の取引を記録して仮想通貨を実現した。ブロックチェーンの代表的な活用は(1)取引台帳、(2)存在証明、(3)スマートコントラクトの3点であるとした。

その後、高木氏より (1)ブロックチェーンを使うメリットデメリットの質問が投げかけられた。

 

田中氏は、Ethereum、Private型でProof-of-Authorityという仕組みを採用しており、課題はあるが満足しているとした。(Proof-of-Authorityとは、authorityモードを作りauthorityがブロックを作ればそのまま認める方式)。

安氏 は、大企業ではブロックチェーンの開発・テストをPrivate型で行うことが多く、メリットはコスト面だが他は従来のRDBシステムと変わらないとした。

杉井氏は、 田中氏のProof-of-AuthorityはPrivate型で、安氏はEthereumでPublic型だが、トークンの発行はPublic型で、ビジネス面はPrivate型でやるハイブリッド型がよいとした。Ethereumだけでなく、IOTA、mijin、Miyabi、Iroha、Fabricなど新しい技術も検討可能とした。

宮村氏もハイブリッド型に賛同し、ビジネスレイヤーはプライベートとすべきだが、トークン発行はパブリックが良いとした。

安氏からは、ALisでもブロックチェーン部分は少なく、RDBと組み合わせているとの説明があった。

次に高木氏からICOの金額や株主との関係について質問が投げかけられた。

安氏からは3年かけてチャレンジするときに、トークンが流通する最低限の金額が良いとの意見が示された。多く調達しているプロジェクトは、価格上昇の伸び率は低いとの指摘がされた。

宮村氏からは、株主との関係について、プロジェクトベースのICOの目論見書にも会社全体の価値を上げるということが示されるべきとの指摘がされた。

 

高木氏から最後にブロックチェーンはこれからどのように発展していくかとの質問が成された。

杉井氏からは、ブロックチェーンの技術は若く、まだいろいろ出てくるが、いいところは相互運用性が実現できるところだとの見解が示された。

田中氏からは、ビジネス的には、10年後にもサポートされているかが不安の旨の指摘がされた。

安氏からは、おそらく来年は、ブロックチェーンとトークンを活用したサービスの実際のプラクティスがでると予想し、税制や法制の整備が必要になるとの期待が示された。

宮村氏からは、ブロックチェーンの技術をよりローカルなコミュニティに適用する場合、参加者の期待に応じた柔軟性や標準化があれば適応範囲が広がるとの見解が示された。

最後に高木氏 からICO、ビットコインの分裂、思想的な理想、技術的な現実、経済的な現実の狭間で色々な人たちが様々な努力を行っている点、経済的なインセンティブと技術が複雑に絡み合う点が今までと異なるが、深く議論されたとの総括がされた。

 

参考

GLOCOMとは

ALISのICOで約4.3億円調達!ミートアップに参加してきた