群集の基本構造に関する理論的研究
・捕食-被食相互作用と相利との関係解明
・繁殖干渉が群集構造に及ぼす影響の評価
・代数的手法による群集構造解析
群集communityとは,複数の種による個体群が時間や空間を共有することによって形成される集まりを指します.そうした集まりの中では,捕食-被食や相利といった様々な種間相互作用がみられ,それぞれの個体群サイズの変動要因となっています.害虫による被害の管理や希少生物の保全において,対象種の個体群サイズがこれからどのように推移するのかを把握することが重要であることなどから,種間相互作用により構築される「群集構造」を理解する必要があるのですが,実はこれがなかなか難しいのです!
難しい理由を説明します.話をわかりやすく(?)するために,ひとまずわたしたちがシマウマであったとしましょう.餌である草を食べようと思ったら,向こうにライオンがいることに気付きました.しかし,そのライオンと自分たちとの間で,ガゼルが草を食べています.どうやら,ガゼルはまだライオンの存在に気づいていないようです・・・.この状況において,わたしたちシマウマにとってライオンやガゼルはどのような関係性でしょうか.ライオンはシマウマを襲うので,当然ライオンはシマウマの天敵です.ガゼルはシマウマの餌である草を食べるので,競争者になります.もしライオンがシマウマよりもガゼルをより襲い,数を減らすならば,ライオンがいることによってシマウマは餌である草に一層ありつけるかもしれません.しかし,ガゼルを食べることによってライオンが増えてしまったり,ガゼルが減って代わりにシマウマが狙われやすくなったりすることで,将来的にはシマウマが一層ライオンの餌食になるかもしれません・・・.はたして,シマウマにとってライオンやガゼルは敵なのか,それとも実は味方なのか?
昆虫の研究室なのに,なぜシマウマだのライオンだの語るのかと感じたかもしれません.しかし,物事の本質としては,この例に現れた複雑な関係性は別にシマウマやライオンに限った話ではなく,昆虫類も含めたすべての生物群集に共通なのです.ただし,この関係性を明らかにするために,シマウマやライオンを研究するには,わたしたちの人生は短すぎます.だけどありがたいことに,サイズが小さく寿命も短い昆虫を材料に用いれば,わたしたちはこの普遍的な事象の探究に向けてアプローチできるのです.
コガネムシやシロチョウ,ハムシなど様々な種を材料として,わたしたちは捕食-被食や繁殖干渉などの直接的な相互作用が群集を構成する他の種にどのように間接的な影響を及ぼすかを,野外調査や室内実験により調べています.また,そうした知見を元に,群集構造を記載できる「群集行列」を解析することで,種構成や地域などにとらわれない群集構造の一般解釈に挑んでいます.