【第171回】「己(おのれ)の道」を見つけてほしい

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投稿者: 山下 徹
(昭和53年人文学部法経学科経済専攻卒/旧制静岡高校100周年記念事業実行委員会事務局長)


大学キャンパスは不思議な空間だ。100周年事業に関わり、定期的に通うようになって学生を見ているとつくづくそう思う。点数を取るためだけの受験勉強から解放された気持ちは皆同じだ。新たな学問に期待し、仲間と楽しく語り合う一方で、将来への漠然とした不安を抱えているように思える。夢と希望にあふれながらも、どこか自分を見失っているような雰囲気が漂う。未だに強い自信が持てず、自己が確立されていないのではないか。

無理もない。学生たちは子供のころから、数字に縛られ、「良い数値」を目指すことを強いられてきた。競争相手を絶えず意識して、「取る」「奪う」の連続。他人の評価ばかりを気にしてきた。闘ううち、「自分(己)」をどこかに置き忘れてきたのだろう。

生物は「足し算」で生きているという。一日一日、精一杯生きて成長していく。人間は違う。「引き算」が得意だ。目標を設定し、逆算して今やらなければならないことを考える。計算通りにいかないと無性にストレスがたまる。

「己の道(生き方)を見つける」―。100周年事業を通して最も学生に伝えたかったものだ。キーワードは100周年記念誌(2023年6月発行)の中に数多くちりばめられている。卒業したらまた、「取る」「奪う」世界に戻らざるを得ない。AI(人工知能)に代表されるデジタルの時代、「人間とは何か」「自分は何のためにこの世に生まれてきたのか」「生きがいを見つけるには」なんて考えている暇はない。しかし、大学の4年間は「数値」にとらわれないで生きることができる。自由な時間をもっと大切にしてほしい。

今、静岡大学は法人統合再編で揺れている。学生一人一人が先達の在学時の営みのように、社会と関わる有意義な生き方をすれば、大学を見る県民の目も変わる。もっと身近な問題として考えてくれるだろう。