樹木集団の保全や管理を考える上で、遺伝的な多様性や分化の現状を知り、また、現在の状況が生じてきた要因を理解することは大切です。私たちの研究室では、このようなことを解明する分子生態学研究にも取り組んでいます。
最近では、ヒノキの遺伝的多様性を検証する研究などを実施しています。ヒノキの天然林はごく限られた面積が残るのみとなっており、また、更新が停滞傾向にあるなど、その保全の必要性が指摘されています。私たちは、林木育種開始以前の老齢な人工林であれば、天然林と同様、あるいは、天然林から消失しまった遺伝子型なども保存されいるのではないかと考え、老齢人工林の持つ保全遺伝学的な価値を検証する研究などに取り組んでいます。
過去には、縮小・断片化したブナ林における交配の実態をDNAマーカーを用いて明らかにし、集団規模の縮小が、子孫集団の遺伝的多様性の低下を導いていることを示した研究(リンク1、リンク2)や、種子が海を渡って分布を広げる海流散布植物のテリハボクの遺伝構造を明らかにし、諸島間の遺伝子流動が生じてきた可能性を示す研究(リンク)なども実施してきました。
ものを言わない樹木も、DNAを通していろいろなことを教えてくれます。様々な樹種を対象に、これからも研究を発展させていきたいと考えています。