研究内容


研究シーズ

「LSIプロセスを使った多機能・集積化(マルチモーダル)センサの実現

 トランジスタやICなどの半導体製品は、水気を嫌うため、水につけたりした場合は思わぬところに過電流が流れすぐに壊れてしまいます。ところが、半導体のLSIプロセスをうまく組み合わせ防水性能を向上させることにより、水につけても壊れることなく安定して動作させられる素子の開発に成功してきました。この技術を基盤とし、化学的、物理的な自然現象を正確にとらえ電気信号や数値データへと変換できる半導体型センサチップの研究を行っています。
これまで、水溶液や土などを対象としてpHセンサ、温度センサ、電気伝導度センサ、酸化還元電位センサ、水分量センサなど、様々な半導体型センサ素子に関する研究に取り組んできました。
センサの原理・現象を深く探求し、Si-LSIプロセスでどのように実現すればよいか、高性能かつ長期計測を行うためにはどうすればよいか、日夜、研究に励んでいます。
LSIプロセスによりミリ単位の小さなセンサチップにすることができ、これまでに測定することができなかった場所(生体、土壌、地下水、配管内部など)での現場計測(オンサイトモニタリング)を実現していきます。

「過酷環境モニタリングに向けた新しい計測手法の開発」

土壌や生体内、高圧地下水といった過酷な環境をモニタリングするためには既存の計測方法では十分な性能を得ることができません。そのため、それぞれの計測環境に適した新たな手法を開発し、長期・安定したセンサの実現を目指しています。
土砂災害予知を目指したセンサでは、土中水分量とその水分に含まれるイオン濃度を個別に算出する新しいセンサでは、土壌物性値を電気的なインピーダンス計測により取り出す方法を研究しています。
多種類のセンサを同時に駆動させるマルチモーダルセンサでは、周波数分離技術、最適動作点の算出により、実現させました。
この他、様々な計測手法の提案・実証を行っており、多くの特許出願、学術論文投稿を行っています。

「多種類センサの連続駆動に向けた駆動回路の開発」

 半導体型センサチップを新しい計測手法で駆動させる場合、その動作検証になくてはならないのが駆動回路です。特に、実験室ではなく精密農業や土砂崩れ予知などの現場計測においては、大型な装置の設置が難しく長期計測も困難です。
本研究室では、最適な動作点・駆動方法を実証したのち、現場計測に向けた駆動回路の設計を実施しています。基礎実験や数式で導き出されたアイデアを現実のものへとするための大事なステップです。自らが設計したセンサおよび駆動回路を現場にもっていって計測することで、実験室ではわからなかった様々な問題点を知ることになり、より理解を深めることができるようになります。
設計、計測、改良を繰り返すことで、真に必要とされるセンサシステムへと仕上げて行くようにしています。


応用事例

「精密農業での土壌・培地内マルチポイント計測」

農作物の高収量化や高機能化、高付加価値化がより一層進んでいくことが期待されています。その中で、栽培環境のモニタリングは重要な役割を果たします。特に、土壌・培地中の直接モニタリングのますますの発展が望まれています。
研究室では、土壌中・培地中のモニタリングを目的とする地温、養分濃度、pHが計測可能なマルチモーダルセンサに関する研究を行っています。Si半導体基板上にLSIプロセスにより温度センサ、電気伝導度センサ、pHセンサを形成することに成功しており、培地中に挿入したままでのオンサイトモニタリングを実現しています。

「土砂災害予知を目指した土中水分量計測」

豪雨などによる土砂崩れ(斜面崩壊)は、家屋だけでなく人の命も危険にさらし大きな被害をもたらします。一般的には崩れ始めを検出するセンサ使われており、崩壊直前の避難に役立っています。
研究室では、一歩進めて、崩壊が発生するより前の危険度レベルを知ることができる、土砂災害予知のためのセンサを開発しています。雨などにより土に含まれる水分量が増加し、土の摩擦力が低下するとともに水を含む土の重量が増加して、斜面崩壊が発生します。このメカニズムより、山の斜面で使用可能な、土中の水分量を連続的に計測できるセンサを製作し、予知につなげていこうとしています。
半導体型インピーダンス計測用センサを開発し、土中水分量とセンサ出力との関係性を明らかにしてきました。そして、3年以上の長期的な水分量変化の観察を現在でも行っています。

「飲み込み型ケミカル分析用カプセルセンサ」

人体・生物にかかわらず、体内の様子を精密に観察することは重要です。カプセル型内視鏡に化学分析機能を付加することができれば飛躍的にその分析精度は向上すると考えられます。小型で複数種類のセンサを集積化した半導体センサチップ(マルチモーダルセンサ)を用い、システムの小型化を行い、電池駆動化やデータの無線送信化を実現することにより、カプセル型ケミカル分析センサの開発を行ってきました。これを用いて、畜産分野において乳牛の第一胃(ルーメン)からのリアルタイム電気伝導度・温度計測と無線送信を実現することに成功しました。今後、pHや酸化還元などの更なるセンサの集積化を目指していきます。


研究ツール

センサ技術、電子回路技術を基盤とし、下記のような様々な機器を用いて研究を行っています。

電界シミュレータElecNet、キーサイト(旧アジレントテクノロジー)社製直流電源・発振器、
テクトロニクス社製発振器、グラフテック社製データロガー、真空オーブン装置、
実体顕微鏡、超純水生成装置、3Dプリンター など