XPSの積算回数について考えてみたいと思います。XPS(ESCA)測定のパラメータとして積算回数があります。積算回数を加減すると結果にどのように反映されるのか実際に試して見ました。ESCA-3400を使用して積算回数を変えカーボンテープをのC 1sスペクトルを測定した結果が下の図です。積算回数は左からそれぞれ1, 3, 5, 10, 30回であり、積算回数が増えるほど、S/N比(信号/ノイズ比)が良くなっており、波形も滑らかになっていることがわかる。したがって、積算回数を増やして測定するほうがよい波形分離などの解析がしやすい結果が得られるといえる。ただし、ESCA-3400のナロースペクトルのデフォルト設定は測定1回が1分で終わるような設定になっているため、積算1回なら1分程度で測定できるが、積算30回になると1つの元素のスペクトルを得るだけで30分はかかることになる。したがって全てのスペクトルを大きな積算回数を設定して測定するのは現実的でない。
以上のことから、積算回数は大きくするに越したことはないが、全てのスペクトルで積算回数を大きくするのは現実的ではないといえる。このことから、信号強度が小さくS/N比が良くないが注目している元素や詳細な波形分離をしたい元素について積算回数を増やし、逆に信号強度が大きいスペクトルや波形分離を厳密に行わなくて良い元素については積算回数を減らすという方針で積算回数を加減すればよいといえる。当たり前といえば当たり前の結論であるが、実験室で必ずしも徹底されていないので再認識して欲しい。
図.カーボンテープのC1sスペクトル。積算回数は左からそれぞれ1, 3, 5, 10, 30回。