一般に、実験報告書は、我々科学者・工学者・技術者が自分の行った仕事や研究の成果を発表するものであり、他人に読んでもらうためのものである。単に、説明書や参考書を移すのではなく、実験結果を忠実に報告するとともに、必要とする人が読んでわかるように書くべきものである。実験報告書を書くにあたり、以下の点に留意すること。
実験報告書のフォーマットと提出
様式
実験報告書は、基本的にはPCで作成した実験報告書ファイルを直接電子提出してもらう。文字は黒の書式で記述する(図表やグラフも基本的に同様)。赤は使用してはいけない。鉛筆書きの報告書およびコピーの報告書は受理しない。
提出期限
報告者は、各課題の実験担当者が指定した期日までに実験報告書を担当者に提出する。担当者によっては提出期限を過ぎると受け取らない場合があるので注意すること。やむを得ず遅れる場合には、その旨をレポートに記入して期限内に提出し、正式な報告書の表紙には「遅提出」と朱書きして担当者に提出する。
「提出」とは報告書を出した時点ではなく、実験担当者が正式に「受理した時」のことをいう。また実験では、特に断らない限り、すべての実験に参加・実施し、すべての報告書を提出・受理が単位認定の必要条件であるので留意すること。
提出場所
Teamsの所定の場所に提出するよう別途指示する。
記述する内容
報告書は、参考文献や指導書を丸写しするのではなく、あくまでも自分で理解し、他人に伝えるために自分の言葉で書くことが重要である。明らかにコピーとわかるものについてはその提出を認めない。実験では、万が一望んだ結果が出なくても、きちんとその理由を調べたり、エラーに対する論理的な考察が為されていればOK。つまり、採点されるのは実験結果でなくレポートだということ。うまく行った実験では有用な考察は書きにくい。失敗した実験、うまく行かなくて苦労した実験のほうが、役に立つ考察や良くするための考察が得られる(有益・有用な考察のほうが評価は高い)。
様式はおおよそ以下のとおりである。
- 実験の目的
何を理解するためのものか、どのような技術を習得するためかという点について簡潔に記述する。指導書に記載されている目的は、「学生がその実験を通して何を学ぶのか」という観点から記載されているため、そのまま記載してはいけない。「この実験は何を目的に、何を理解することを目的としているのか、何を明らかにしようとしているのかを書くこと。 - 実験原理、実験方法、使用装置および機器
2.1 実験原理
必要であれば実験で用いる原理、仕組みなどの解説をする。(すべてを詳細に書く必要はないが、この分野の後輩が同じ実験を行う上で必要な知識・原理・仕組みなどは解説しておく必要がある)
2.2 実験方法
実験方法は指導書のように詳細に書く必要はなく、実験の目的との 関係に焦点を絞り、何をどのような原理で観測するかを簡潔に記述する。 レポートを後に読んで、レポートだけで追試(再び同じ実験)を実施するのに必要な情報がすべて記載されていることが重要である。 実験方法と実験の結果は明確に分けて記述すること。
2.3 実験装置および実験機器
実験機材・機器については、測定器、使用装置の名称、型式番号だけでなく、精度についても明記すること。 - 実験結果
実験方法にしたがって得られた実験結果について記載をする。実験結果の記載については以下のことに注意すること。- 実験結果を一目で理解できるように観測データを整理し(不要なデータや重複データは省く)、表あるいはグラフとして提示する。
- 図表には、それを見ただけで何を表すものかが判るように、全体の通し番号(図1,表1など)、説明文(「○○と××の遅延時間」とか「○○の周波数特性」等)をつける。図番号と解説文は図の下側に、表番号と説明文は表の上側につけること。実験結果の図表だけでなく、すべての図表につけること。
- グラフの場合には、軸が表す物理量、単位、目盛を必ず記入し、計測点には○、△、×などの印を用いてプロットする。
- 作図、回路図においてはフリーハンドは認めない。必ず、直定規、雲型定規等を用いて、なめらかに書くこと。雲型定規は実験室に用意するのでそれを使用して良い。
- 電気・電子回路図及び論理回路図には定められた記号を用いる。報告書には実際に行った実験回路図を必ず記入すること。指導書の回路図のコピーは使用不可である。
- 比較対象が明確に判るように図表の配置にも気を配る。
- 実験結果の検討・考察
実験結果が事実の提示であるのに対して、検討・考察は実験目的や既成理論と照合しながら、実験結果に対する自分の評価や考えを書くものであり、実験報告書の中でも最も重要な部分である。実験結果の良し悪しよりも、検討・考察を自分の頭でじっくり考え・行ったかどうかが、実験報告書の良し悪しを決めることを十分に念頭におくこと。実験結果から得られるデータを利用する(結果に基づいた考察を行う)こと。また、実験の感想、意見などは考察とは別物であるので、区別して記述する。 - 参考文献
実験報告書を作成するにあたり、参考にした文献(図書、論文等)については、著書・文献名・(巻,号,頁,)年を最後にまとめて列挙する。
レポートの書き方については、
[1] 木下 是雄 著:「理科系の作文技術 」,中公新書,中央公論新社 (1981/01)
[2] 結城浩 著;「数学文章作法 基礎編」,ちくま学芸文庫,筑摩書房 (2013/4)
[3] 一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会 編著:「日本語スタイルガイド(第2版)」,一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会出版事業部会(2013/01)
などがよりよいレポート作成の参考になる。卒業論文などにも利用できるので一読をお薦めする。
実験レポートの書き方の基本
実験レポートの基本は以下のグライスの公理に示されている4点である。 たった4点の観点を意識しながらレポートを書くことができるならば、 レポートの質は格段に向上する。この意識・考え方ができるようになれば、コミュニケーション、プログラム、 プログラム中のコメント、報告書、研究論文などの応用先は非常に多い。
グライスの公理 <コメントの9割は無駄!〜アンチプラクティスから学ぶ洗練されたコメントの書き方〜
報告書全体で筆者と読者間で円滑なコミュニケーションを成立させるためにはどのような点に注意したらいいでしょうか? グライスの公理(Grice’s Maxims)は、円滑なコミュニケーションが満たすべき4つの条件を説明しています。
- 量の公理(Maxim of Quantity): 情報を過不足なく提供する。
- 質の公理(Maxim of Quality): 根拠のないことを述べない。嘘をつかない。
- 関係性の公理(Maxim of Relation): 関係のないことは述べない。
- 様式の公理(Maxim of Manner): 簡潔に理路整然と述べる。
この公理は、人が日本語や英語などの自然言語で会話するとき、会話が効率よく行われるための観点を述べたものですが、報告者は報告書から読者に意図を伝えるというコミュニケーションしているわけですから、報告書においてもこの公理が当てはまります。
良くないレポートの特徴
レポートの可読性を低めたり、誤解を与えるような文章を見かけます。そのような文章はグライスの公理に反しているものが多く、文章上の円滑なコミュニケーションを阻害します。
- 量の公理に違反: 文章を書きすぎている/式・信号名等が説明不足・未定義。表に書いてあることをそのまま日本語でも説明。表や図から得られる結論がない。
- 質の公理に違反: 実験結果が間違っている。実験方法と実験の内容が矛盾している。複数のコピペされた結果や論理式等に矛盾が発生。
- 関係性の公理に違反: 実験の内容と関係のない説明,実験の本質とは関係のないテストデータの提示。
- 様式の公理に違反: ストレートではなく、まわりくどい、曖昧なコメント。等式の式変形で証明できるものを文章により回りくどく説明されている。数式の展開が怪しい。数式の解釈・展開・式変形が怪しいので文章で曖昧に記述される。
余談:考察と感想の違い
「レポートや論文を書くときに気をつけたいこと」より抜粋→ http://togetter.com/li/139175
- レポートにおける実験内容と結果と考察と感想の違い(1)
- 実験内容:古い牛乳を飲んだ,
- 結果:お腹が痛くなった,
- 考察:牛乳が腐っていたために腹痛を生じたのだと考えられる,
- 感想:飲むんじゃなかった.
- レポートにおける実験内容と結果と考察と感想の違い(2)
- 実験内容:あの子に告白メールを送った,
- 結果:振られた,
- 考察:原因としては文面が悪かった,あの子に彼氏がいた,相手にされていなかった,などの可能性が考えられる,
- 感想:泣きたい.
余談:論文に死んでも書いてはいけない言葉30
報告書でも同じ。http://2chcopipe.com/archives/51895586.html
【参考】「現代仮名遣い」に関する内閣告示及び内閣訓令について
公用文に対する「現代仮名遣い」に関する内閣訓令が存在する。このような規則・ガイドラインに従うことを意識すると表記の揺れなどが少なくなると思われる。
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gendaikana/index.html
【参考】公⽤⽂における漢字使⽤等について
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/sanko/koyobun/pdf/kunrei.pdf