超弦理論の相転移現象の研究

超弦理論は量子重力の有力な候補です。しかし超弦理論は解析が非常に困難で、その性質はあまり理解されていません。そのため超弦理論が本当に我々の宇宙を記述しているのかまだわかっていません。そこで多くの研究者が超弦理論の性質を解明しようと様々な解析を試みています。

私達の研究室では超弦理論の熱力学的な性質を中心に調べています。水が温度を変えると氷や水蒸気へと相転移を起こすように、弦も相転移を起こすと考えられています。下図が弦の相図の一部を示したもので、系の温度や体積を変えることで様々な相転移を起こすと予測されています。

超弦理論の相図の一部: 体積Lや温度Tなどを変えることで、様々な相転移が起きます。

弦の熱力学の面白いところは、弦理論が重力を含む統一理論のため、様々な物質の熱力学現象と関係している点です。例えば重力理論において重要なブラックホールの熱力学や、原子核理論で重要なクオーク・グルオン・プラズマ状態の熱力学などが、超弦理論の熱力学と密接に関係していることが解明されました。そのため超弦理論の熱力学の研究は、素粒子理論だけでなく、一般相対性理論や原子核理論の研究者も注目しており、これらの異なる分野の研究者同士の共同研究も盛んに行われています。

例えば下図は格子ゲージ理論という素粒子理論や原子核理論でよく使われる手法を応用して、弦理論の相転移次数を数値シミュレーションにより決定したものです。

このように弦の基本的な性質の理解を深めることで、弦理論の全容を解明していきたいと考えています。

Transition

数値計算による弦理論の相転移の次数の決定:
ある相転移点において、オーダーパラメータの値(横軸)とその値の分布(縦軸)を図示しました。分布に2つピークが現れており、この相転移が一次相転移であることを示しています。(仮に二次相転移の場合はピークが1つしか現れません。)

参考文献

Takeshi Morita, Shotaro Shiba, Toby Wiseman, Benjamin Withers
e-Print: arXiv:1412.3939
Takehiro Azuma, Takeshi Morita, Shingo Takeuchi
Phys.Rev.Lett. 113 (2014) 091603
 学術論文へのリンク
Gautam Mandal, Takeshi Morita
JHEP 1109 (2011) 073学術論文へのリンク