酸素分子の磁性と水分子の誘電物性
酸素分子はスピン量子数S=1が基底状態となる、もっとも単純な磁性分子です。このことは酸素ガスで膨らませたシャボン玉やゴム風船が磁石に引きつけられることで確かめられます。酸素分子の磁性は液体や固体状態でより顕著になります。特に固体酸素の結晶構造は磁気的な秩序状態によって大きな影響を受けることから、スピン制御性結晶とも呼ばれます。 我々は固体酸素に100テスラ以上の超強磁場をかけることで、固体酸素の磁場誘起新規相を発見しました。これは酸素分子の物理的性質を磁場で制御できることを示唆しています。
- T. Nomura, Y. H. Matsuda, T. C. Kobayashi, “Solid and liquid oxygen under ultrahigh magnetic fields”,
Oxygen 2(2), 152-163 (2022). Review, Featured Paper. - T. Nomura, Y. H. Matsuda, T. C. Kobayashi et al., “Novel phase of solid oxygen induced by ultrahigh magnetic fields”,
Phys. Rev. Lett. 112, 247201 (2014). Editors’ Suggestion, Featured in Physics.
水分子はもっとも身近な永久双極子を持つ分子です。しかしながら水の秩序状態は複雑であり、21世紀においてなお最先端の研究対象であり続けています。我々は鉱物中の水が持つ電気双極子の秩序に着目して、格子の次元性と対称性を制御した際に現れる新奇な秩序状態を研究しています。
カイラル磁性体とカイラル誘電体
近年、磁気スキルミオンをはじめとしたトポロジカル物性の探索から、カイラル磁性体が着目されています。我々はカイラル物質が磁場中に置かれた際に、磁場に対して並行と反並行で伝搬特性が非相反になる現象、「磁気カイラル効果」に着目し、バルク結晶におけるフォノンの非相反伝搬を世界で初めて観測しました。フォノンは固体における音波や熱の伝搬を担う準粒子であることから、将来的に音響ダイオードや熱ダイオードへの応用が期待されます。
- T. Nomura, X.-X. Zhang, S. Zherlitsyn, J. Wosnitza, Y. Tokura, N. Nagaosa, S. Seki, “Phonon magnetochiral effect”,
Phys. Rev. Lett. 112 145901 (2019). Editors’ Suggestion, Featured in Physics. - T. Nomura, X.-X. Zhang, R. Takagi, K. Karube, A. Kikkawa, Y. Taguchi, Y. Tokura, S. Zherlitsyn, Y. Kohama, and S. Seki, “Nonreciprocal Phonon Propagation in a Metallic Chiral Magnet”,
Phys. Rev. Lett. 130, 176301 (2023).
時を同じくして、近年カイラル誘電体の開発も盛んに行われています。我々はカイラル分子と極性分子を組み合わせる戦略で誘電体を開発し、新奇な秩序状態を研究しています。
- T. Nomura, T. Yajima, Z. Yang, R. Kurihara, Y. Ishii, M. Tokunaga, Y. H. Matsuda, Y. Kohama, K. Kimura, T. Kimura, “Ferroelectric Transition of a Chiral Molecular Crystal BINOL∙2DMSO”,
J. Phys. Soc. Jpn. 91, 064702 (2022). Editors’ Choice.