研究紹介

我々は植物の化学防御システムを酵素化学,生化学,分析化学的手法を駆使しながら解明することに取り組んでいます。
根を張った土地で一生を全うする植物は、常に生物ストレスや環境ストレスに曝され、その結果多様な防御システムを獲得し進化させてきました。昆虫や微生物から身を守る生理活性物質(二次代謝産物)の生合成も防御システムの一つと考えられます。私は樹木の二次代謝産物の生合成に注目し、化学的視点から樹木の生存戦略=生命現象を物質レベルで解き明かすことを目的とします。また得られた遺伝子、酵素、化合物のアウトプット情報を基にして、医薬品や有用資源化合物である二次代謝産物の代謝工学研究に発展させることで植物資源の保全および環境保護に貢献することを目指します。
また学生と共に研究を推し進め、国内外の研究者と幅広く交流することにより、グローバルな視点を持った化学と生物の学際領域で活躍できる人材と世界に通用するオリジナルな研究を静岡大学から世界に向けて発信していきたいと思います。

「化学」の目で植物の生命現象を解明する

植物は,光合成により二酸化炭素と光エネルギーから酸素と糖を生み出す。さらに植物は,光合成で生成された糖を起点に,アミノ酸,脂質などだけでなく,医薬や工業製品に利活用される多種多様な代謝産物を生合成する。このことは,酸素を必須とする生命体や従属栄養生物の生存,さらに現代の我々の生活が植物に支えられていることを意味している。 植物は20万種類の化合物を生み出しているといわれる。これらのうち多くの化合物は,植物の生存に必須または生存を有利にする。発芽した土地に根を張って生きることを選択した植物は,動物などのように素早く移動することはできない。そのため植物は,捕食者や病原菌をはじめとする生物的ストレスや乾燥,高温などの非生物的ストレスに対する耐性システム (環境ストレスマネジメントシステム) を発展させ,進化を遂げてきた。植物が生み出す多種多様な代謝産物は,植物の生存戦略の基によって生合成されてきたと言っても過言ではない。植物の化学的生存戦略は主に3つに区分でき,i) 同化代謝戦略,ii) 化学防御戦略,iii) 繁殖戦略がある。
i) 同化代謝戦略: 大気中の二酸化炭素と土中の無機塩類,光エネルギーを用いて糖やアミノ酸を生合成する (同化代謝)。ii) 化学防御戦略: 捕食者に対する毒性や忌避性,病原菌に対する抗菌性,他植物の生長阻害性,紫外線や活性酸素の除去作用,貧栄養ストレスにおける供給源などを示す生理活性物質を生合成する。iii) 繁殖戦略: 花粉を媒介する昆虫や鳥などを引き寄せるため花色や香りを生合成する。 特に,化学防御戦略で生合成される化合物は化学防御物質と呼ばれ,様々なストレスに対応するために豊富なバリエーションの化学構造を示し,十分な効果を示す必要があるため,強い生物活性を有している。 以上のような強い生物活性を利用して,人類は植物を医薬品や食品 (ハーブなど)に有史以来利用してきた。近代では工業製品原料にも利用され,我々の生活の身の回りに広く存在している。