新型コロナと法  〈地域と世界の法2020年度・第1回〉

受講生の皆さん、こんにちは、お元気ですか。

さて、いよいよ「地域と世界の法」の第1回です。

前回のオリエンテーションで新型コロナ・ウィルス対策と皆さんの生活との関係について問題提起しました。

新型コロナ・ウィルス対策として政府や各自治体が行っている自粛要請などの政策によって、大学の授業がお休みになったり、オンライン授業に切り替えられたり、バイトができなくなったりと、みなさんの生活においていろんな不便が生じています。オリエンテーションで学んだことを踏まえれば、国の新型コロナ・ウィルス対策によって皆さんの自由が制限されているという事態が生じているわけです。はたしてそのような自由制約は正当なのでしょうか、従うべきなのでしょうか。

国が決めたことだから従うべきだ、という考え方は人権を最も大切な価値と考える近代的立憲主義と対立します。日本国は人権を最高の価値、目的として保障するために日本国憲法という主権者であるみんなの約束によって創設されたものです。人権を保障するために日本国が手段として作られたのです(それまで存在した大日本帝国はこれによって消滅しました)。人権が目的であり、国家が手段なのです。国家は人権を保障すべき役割を担っており、また国家の権力や活動は人権とそれを保障している憲法によって制限されます。このような仕組みを近代立憲主義と言います。

すべての人が生まれながらに有する自由、人権を保障するために国家が作られたのですから、国家が人々の生来の自由を制限することは原則として許されないのです。人権は国民みんなのために、国民みんなで決めたとしても奪うことができないものなのです。

このような人権、近代立憲主義の考え方からすれば、たとえ新型コロナ・ウィルスの感染防止という目的であっても、自由を制限することは許されないのではないか、という疑問が生じます。国家による自由の制限には、ちょっと待ってと疑問を投げかけるべきなのです。

そうしてこそ、仮に自由の制限が許されるのだとしたらそれはどのような理由なのだろうか。どのような条件がそろえば自由の制限が正当化されるのだろうか、という問題を建てることができるのです。

 

さて、ここでいきなり新型コロナ・ウィルス対策による自由制約の正当性という大問題に取り組むのではなく、少々回り道をして問題を考えていきましょう。

 

では、問題です。

【 設問 】

 人々の自由を制限しながら、制限された市民自身にも善いものとして歓迎され、受け入れられるものはあるだろうか?

1.身近にある具体的な事例をあげなさい。

2.そのような自由制約が正当化される理由は何か簡単に説明しなさい。

 

★ 解答は笹沼までメールで提出して下さい。

■ 解答締め切り:   5月7日(木)午後5時

■ 解答提出先: 笹沼 sasanuma.hiroshi@shizuoka.ac.jp

 

********〈解説〉*************:

新型コロナ・ウィルス対策による自由の制限については、新型インフルエンザ等特別措置法(以下、特措法)という法律によって定められています。実際には、安倍総理大臣が、この法律を使わずに、特段法的な根拠もなく、全国一斉休校を「要請」するといったことが行われ、新型コロナ・ウィルス対策が進められてきました。この特措法は新型インフルエンザが流行したときに当時の民主党政権が2012年に制定したものです。この特措法でも新型コロナ・ウィルスを対象に法律を適用できたはずなのですが、安倍政権はそれはできないとの解釈をとり、特措法を敢えて使わなかったのです。その後、新型コロナ・ウィルスを特措法の対象とするという法改正を今年の3月13日になって行い、ようやく特措法に基づく対策がとられるようになりました。

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h.sasanuma
憲法学、人権理論の研究を専門としています。