研究室に来てくれた卒研生4人それぞれに、解けると世界で何人か何十人か、ひょっとすると何百人かに影響を与えられると私が思う研究テーマを提案した。卒論を書き始めるまでにどこまで進められるか分からないが、どれもこつこつやっていけば新しいアイデアが出ると感じた問題である。自分でも解いたことのない問題に答えが出せるように感じるということは、考えてみると不思議なことである。研究を続けてきた経験からそう感じるとしか言いようがない。
最終的に解きたい問題はとても複雑なので最初は見通しがつかない。解析的にアプローチできる程度まで、問題の枝葉を払っていって抽象度を増していく。同じ程度に抽象化した積りの四つの研究テーマの中にも、わずかな差で見かけの複雑さが大きく違って見えるようだ。テーマ設定を少しずつずらしていって、簡略化した回路動作を頭でイメージできる程度にする。イメージが湧き解析的に解けたら、少しずつ複雑さを増やしていって具体的な問題に近づけていく。モデル化した問題の解は具体例のどこまでに適用できるか、どの程度誤差を生じるものかを調べていく。
一年間研究テーマと付き合って、「1具体的問題=>2抽象化したものを解く=>3具体例を解く」のアプローチを実践して、これから長く付き合う技術課題に適用できるように自分の工夫の仕方を発明していってほしい。1の具体的問題を見つけることと2のそれを抽象化することは学部・大学院ではなかなか実践できない。2から3へのアプローチを何度か繰り返していきながら、各人が自分で問題を見つける習慣を身につけなければならない。研究者は与えられた問題に答えを見つけるだけでなく、解くべき問題を見つけることも大事な仕事になる。(2017/8/23)