両生類の変態の調節

ホルモンによる変態の調節

無尾両生類(カエル)が幼生(オタマジャクシ)から成体へと成長していく変態の過程では、様々な変化が生じます。わかりやすいところでは、幼生(オタマジャクシ)の尾は変態により消失し、幼生にはなかった四肢が伸びてきます。それ以外にも、脳・神経系、消化器系、呼吸器系など全身のほとんど全ての器官が、変態によって作りかえられたり、新たに作られたり、または退縮したりします。

変態の前後では生体の形態や機能だけではなく、生息環境、食性、行動様式などが大きく変化します。多くの種では、幼生は水棲であり、成体は陸上棲です。また、オタマジャクシの間は植物性の餌を食べるのに対し、変態後は動物性の食性へと変わります。このように、カエルでは幼生と成体とで生息域や餌を競合せず、このことが生存に有利であると考えられています。

変態は内分泌学的に調節されます。主要なホルモンとして、甲状腺ホルモン(TH)、副腎皮質ホルモン(C)、および脳下垂体前葉から分泌されるプロラクチン(PRL)の3種類が知られています(1)。

甲状腺で産生されるTHは変態を促進的に調節する中心的なホルモンで、変態期に生じる様々な変化のほとんど全てに影響することがわかっています。Cは哺乳類の副腎皮質と相同器官である間腎腺から分泌されるステロイドホルモンです。Cは前変態期(幼生の成長が進む時期)には成長や発達を遅延させますが、変態始動期(後肢の成長などの変態による変化が生じ始める時期)にはTHにより引き起こされる変態の進行を加速させます。また、PRLは幼生器官の発達・維持の役割を担っていて、変態期の変態の進行速度を和らげる一方で,一部の成体器官の発達を促します。両生類の変態の進行はこれらのホルモンにより複合的に調節されると考えられています(1、2)。

甲状腺ホルモンの分泌調節機構

THの分泌は、脳下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって促進的に調節されます。TSHは糖タンパク質ホルモンであり、種によって構造が異なりますが、脊椎動物のすべての動物綱でTSHがTHの分泌促進活性を示すことが確かめられています。

さらに、TSHの分泌は間脳視床下部で合成されるホルモンによる調節を受けます。この調節系を視床下部ー下垂体ー甲状腺(HPT)系といいます。哺乳類の場合、TSHの分泌は視床下部ホルモンである甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によって促進されます。カエルの脳にも哺乳類TRHと完全に同じ構造のTRHが存在します。しかし、変態期の幼生のウシガエル下垂体に対してはTSH放出活性を示さず、成体においても比較的弱い活性しかありません(3)。一方で、哺乳類の場合には副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の主要な放出因子として知られている副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が、両生類では非常に強いTSH放出活性をもつことがわかりました(3、4)。CRHは幼生、成体のいずれの下垂体に対してもTSH放出を促進します。

 副腎ホルモンの分泌調節機構

両生類の場合にはCRHが主たるTSH放出因子として働くことが示されました。前述のように、CRHは哺乳類の場合には下垂体からのACTHの放出を促進します。ACTHは副腎皮質ホルモンの分泌を促進的に調節するホルモンです。この調節系は視床下部ー下垂体ー副腎(HPA)系と呼ばれます。

両生類では、CRHがHPT系だけでなくHPA系の調節因子としても機能しているのでしょうか? それともCRHに代わる別の因子が存在するのでしょうか? このことは長らく不明だったのですが、最近次のようなことがわかりました。

哺乳類ではCRHに加えてアルギニンバソプレシン(AVP)という因子がACTHの放出調節に関わっていることがわかっていました。AVPは単独ではACTH放出活性がありませんが、CRHと同時に作用するとCRHの効果を高めます(これを相乗効果といいます)。ウシガエルの場合には、AVPの相同因子であるアルギニンバソトシン(AVT)が単独でも非常に強いACTH放出活性を示すことが明らかになったのです。一方で、CRHは単独ではカエルの下垂体からのACTH放出活性はかなり低く、AVTによる活性を相乗的に高めることがわかりました(5)。

このように相同な因子が動物綱によって異なる作用を示すことがわかりました。このことが何を意味するのかについての解明を目指して、現在も研究を行っています。

参考文献

(1) Kikuyama, S., Kawamura, K., Tanaka, S., Yamamoto, K., 1993. Aspects of amphibian metamorphosis: hormonal control, in: Jeon, W.J., Jarvik, J. (Eds.), International Review of Cytology. Academic Press, New York.

(2) Denver, R.J., 2013. Chapter Seven – Neuroendocrinology of Amphibian Metamorphosis, in: Shi, Y.-B. (Ed.), Current Topics in Developmental Biology, Animal Metamorphosis. Academic Press, pp. 195–227.

(3) Okada, R., Yamamoto, K., Koda, A., Ito, Y., Hayashi, H., Tanaka, S., Hanaoka, Y., Kikuyama, S., 2004. Development of radioimmunoassay for bullfrog thyroid-stimulating hormone (TSH): effects of hypothalamic releasing hormones on the release of TSH from the pituitary in vitro. Gen. Comp. Endocrinol. 135, 42–50. http://dx.doi.org/10.1016/j.ygcen.2003.09.001

(4) Okada, R., Ito, Y., Kaneko, M., Yamamoto, K., Chartrel, N., Conlon, J. M., Vaudry, H., Kikuyama, S., 2005. Frog corticotropin-releasing hormone (CRH): isolation, molecular cloning, and biological activity. Ann. N. Y. Acad. 1040, 150–155. http://dx.doi.org/10.1196/annals.1327.019

(5) Okada, R., Yamamoto, K., Hasunuma, I., Asahina, J., Kikuyama, S., 2016. Arginine vasotocin is the major adrenocorticotropic hormone-releasing factor in the bullfrog Rana catesbeiana. Gen. Comp. Endocrinol. 237, 121–130. http://dx.doi.org/10.1016/j.ygcen.2016.08.014