【第178回】彫刻家 田辺光彰氏と静岡大学

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投稿者: 浅野 安人(昭和47年3月 理学部物理学科卒/理学同窓会前会長)


天岸祥光先生が理学部長になった平成11年4月から、理学部新棟の建設運動が進められた結果、全学共同施設の機器分析センターを置くということで平成12年の補正予算で「総合研究棟」の建設がやっと認められた。

この新棟建設予定地に見ごたえのある樹木が数多く育っていたが、大きい木は植替えに費用が掛かることと、枯れてしまうことが多いことから、施設課からは大樹は伐採するという方針が打ち出された。しかし、一番大きいメタセコイアとヒマラヤ杉の2本だけは何とかしたいと先生は思案した。樹齢40年程度のメタセコイアのこれからますます大きく成長しようとしていた姿は、静大のシンボルにしてもおかしくないものだった。これらを「理学部にふさわしい彫刻作品にし、後世に残す」ことを先生は考えた。

しかし、彫刻家の選定、費用の捻出、作品の設置場所等、問題は多くあった。そんな時、農学部の中井先生(副学長)から、彫刻家田辺(たなべ)光(みつ)彰(あき)氏を紹介された。田辺氏は稲の原種保存や自然界の多様性の重要さに多大な関心を持っていて、そういった関係の多くの巨大な作品を日本はもちろん諸外国に展示している国際的な彫刻家である。

その田辺氏に天岸先生が面談して、率直に気持ちを伝えたところ、思いがけず趣旨に賛同し、『二年くらいかけて生命の多様性を表現してみたい』、製作費についても『そちらにお任せする』と言ってもらった。

この話が理学同窓会に来たとき、私は会計係だったが、前年の創立50周年の記念式典関連で、資金の出費が多く、同窓会としては宿泊費と旅費相当分程度しか出資できなくなっていて、田辺氏のご厚意に甘えることになったのを残念に思っている。この記念碑は、総合研究棟と図書館の横の学園広場に設置されることになり、平成15年3月15日に除幕式が行われた。

田辺氏は、メタセコイアは、野生稲の自生地保全(In Situ Conservation of Wild Rice)、ヒマラヤスギには、生物多様性(Biodiversity)を問うものであると言われた。この二部作に加えて、ジーンバンク(Gene Bank)を作って三部作としたいと提案された。これはインドのヒンズー教の寺院の入口にあるパゴダという、様々な生き物が雑多に描かれた門にヒントを得て、静岡大学の卒業生や職員など縁(ゆかり)のある人達の各々の人生の中で最も記念碑的な品でも写真でも、何か一品を一堂に集めた空間を作り、部屋中の小さな棚に展示し、モニタ画面でその由来(ゆらい)を見ることができるようなモニュメントである。モニュメントとしては型破りかもしれないが、訪れる人の絶え間がないほど人の集まりを誘うようなものにしたいとのことだ。

その由来(精神発揚の場)を共通の財産として増やしてゆき、同窓会と静岡大学の絆を考えてみようという計画である。今世紀は、人類の生存そのものを考え直すことが必要となっていることから、モニュメントの三部作として、将来への黙示録的意味を静岡大学と田辺さんの縁を持って仕掛けてみたいものだと願っている。