投稿者: 萩原 淑恵 (昭和51年3月 教育学部中学校課程英語卒)
この年になって源氏物語を読んだことがない。男女のドロドロとした恋愛関係に興味が持てなかったばかりでなく、光源氏という男性にか弱き女性が振り回される物語というイメージを持っていたからだ。読んでみようと書店で手に取ったことはあるが、レジまで足を運ぼうという気持ちにはなれなかった。そんな私を、今年中に全巻読破しようという気持ちにさせたのはNHKの大河ドラマだ。権力争いに明け暮れる男性を横目に、したたかに生きようとする女性が描かれているのが面白い。
もう一つの魅力は煌びやかな衣装の美しさだ。鮮やかな朱に深い緑を重ね、淡い卯の花色や萌黄色で全体を落ち着かせる。紺青の直垂の袖口から鮮やかな紅が覗き見える男性の装束に目をひかれ、ドラマの道筋に戻れなくなってしまうこともあった。当時の衣装が現存しないので実際はどのような色であったか研究中だと聞くが、書物に記されている色は梅重、枯野、青柳、撫子色など百を超えると言う。その数の多さに驚き確かめてみると、同じ白色系でも染料や染め方によって、黄色がかっていたり、桃色がかっていたりと少しずつ色合いが異なり、百色以上あるという事実に納得した。襲(かさね)といって何色かを重ね、少しずつ変化する色のグラデーションを描いたり、季節感を表現したりといった着方でおしゃれを楽しんでいたようだ。
色を表す言葉の美しさにも興味を惹かれる。若苗色は田植え時期の苗の色、青朽葉は紅葉が朽ちていく時の色、千歳緑は松葉のように深い緑色を表す。なんと細やかな色彩感覚だろう。身の回りにある自然の恵みを大切にいただきながら、様々な色を取り入れて日常を楽しんでいた平安貴族の雅で豊かな生活の様子を感じる。
さて、誰が訳した源氏物語を読んでみようか、久しぶりに胸を躍らせながら書店に向かう。