研究テーマ1

樹木の各種形質の遺伝性を解明して品種を開発したり、樹木それぞれが持つ環境適応性を解明する研究などを行っています。

例えば、
・成長の良し悪し
・材質(材の剛性)の良し悪し
・着花性の良し悪し
・幹の通直性の良し悪し
・病気への抵抗性
・環境応答性
・開葉フェノロジー
などに着目し、これら形質の評価とその遺伝性を明らかにすること、また、それらの形質の地域的な変異や環境適応性との関連を明らかにし、樹木集団の保全管理などに活かしていきたいと考えています。

 

林木育種・樹木の種内変異に関する研究事例
・無花粉スギ品種の開発研究
スギ花粉症は日本における深刻な社会問題の一つであり、花粉の出ない無花粉スギ品種の開発と普及は、花粉発生源対策として極めて有効と期待されます。しかし、現状では無花粉スギ品種の数は少なく、遺伝的多様性の確保や新たな品種を開発するための育種素材として、無花粉スギ品種の充実が望まれます。

スギの雄性不稔は、一つの遺伝子の変異に起因して生じ、この雄性不稔遺伝子を持つ個体同士を交配させることで作出することができます(下図)。本研究では、雄性不稔遺伝子をホモ接合型(aa)で保有する神奈川県の田原1号と、雄性不稔遺伝子をヘテロ接合型(Aa)で保有する静岡県の大井7号の人工交配家系から、雄性不稔かつ成長や材質、通直性、さし木発根性など、林業用品種として求められる性能にも欠点がない個体を選抜しました。

選抜した個体は、春凪(はるな)と命名し、森林総合研究所林木育種センターが設置する優良品種・技術評価委員会に申請し、優良品種(無花粉スギ品種)の指定を受けることができました。

*本研究は、静岡県森林・林業研究センターとの共同研究として実施し、品種申請は材料の作出や選抜過程で協力いただいた神奈川県自然環境保全センター及び林木育種センターも含めた4者で行いました。

・着花(果)性に優れた品種の選抜研究
 樹木の更新、林業用樹種においては苗木の生産において、その第一歩として種子の生産性は重要な形質です。実は、様々な樹種で、花をたくさんつける個体とあまりつけない個体が存在し、その性質には遺伝性があることもわかっています。しかし、私たちの背丈を大きく上回る樹木で、しかも1本あたり数百から数千以上の花や果実をつける樹木ではその評価自体が難しく、あまり学術的な研究が進んでいない分野となっています。
私たちは、このような調査に関する課題を解決するべく、ドローンを用いて樹木を上空から観察し、さらに、花や果実を自動検出して定量するAIモデルの開発などに取り組んでいます。
現在は技術が実用化ステージにたどり着いてきた段階でありますが、今後は、これらの技術を活用して着花性の遺伝変異の解明や、果実生産性に優れた品種の開発などに繋げていきたいと考えています。

下の図は、北海道の主要造林樹種であるトドマツで、球果を検出するAIモデルの例です。現在、北海道ではこの技術を活用して、優良な品種から種子を採取するための場所(採種園)での調査と情報提供にこの技術が活用されています。

下の図は、沖縄県に自生するテリハボクを対象に、着果性を評価するためのAIモデルを作成した例です。テリハボクは、防風林などに活用される樹木で、抗酸化作用のある種子オイルが化粧品の原料などとして利用されます。私たちは、西表島で家系材料を用いた観察を通して、着(花)果性に優れた品種が選抜できないかと考え、調査を実施しています。

 

フェノロジー(生物季節)に関する研究事例
演習林(南アルプスフィールド)には、種多様性の高いブナ林があります。私たちは、ここで、ドローンとレーザー計測(LiDAR)を活用したブナの葉群フェノロジーの観察を行い、葉が出て散るまでのタイミングに大きな個体間差があり得ることがわかってきました。下の図は、ドローンLiDARを用いて取得した森林の点群データと、そこから推定した葉の密度の様子です。現在は、DNAマーカーを用いて林分内のブナの遺伝的多様性や血縁関係を明らかにするとともに、これらの違いが遺伝的支配を強く受ける形質なのか、それとも、微環境のばらつきによる影響が大きいのか、さらには、このような多様性が他種との共存や気候への適応性などに影響し得るのかといったことを明らかにしていきたいと考えています。

 

これらの研究以外にも、様々な形質測定の効率化や遺伝・育種学的研究を複数、展開しています。

 

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