Research

生物を考える上で遺伝子情報に注目することが多いですが、実際に生きている状態は遺伝子に基づき生産された酵素分子の働きで成り立っています。当研究室では生命機能を支えている酵素分子の働きについて1分子計測、結晶構造解析及び生化学的計測を組み合わせて明らかにしています。

具体的な研究対象としては、(1)セルロース加水分解酵素、(2)キチン加水分解酵素、(3)ヒアルロン酸分解酵素、(4)ポリエチレンテレフタレート分解酵素を扱っています。(1)から(3)の酵素についてはそれぞれ、植物細胞壁の主成分であるセルロース、甲殻類の外骨格及び真菌の細胞壁の主成分であるキチン及び動物細胞表面のヒアルロン酸を分解する酵素です。これらを効率的に分解する酵素は、基質である糖分子鎖を結合した後に、それを分解しながら一方向性の運動を行い、その後分子鎖から解離します。この反応サイクルの解析で難しい点は、すべての酵素が反応可能な状態であるとは限らないところです。そこで1分子計測により、それぞれの分子の状態を直接計測し、分解反応を行っている割合や反応している分子の詳細な解析を可能としています。加えて結晶構造解析により酵素分子と基質分子鎖の原子レベルの相互作用を解析し、それらの結果を合わせることで酵素分子の分解反応機構及び運動機構を明らかにしています。(4)の酵素は、環境中に残留して問題となっているプラスチックを分解します。しかしその分解は容易ではありません。そこでプラスチックと同様に固体であるセルロース、キチンを効率的に分解する酵素の研究をプラスチック分解に適用することでより分解活性の高い酵素の創出を試みています。

 

 

(1) セルロース加水分解酵素

 

糸状菌とバクテリアはどちらも結晶性セルロース分解能が高い酵素を生産します。特にセルロースの非還元末端側から分解を行う糖質加水分解酵素ファミリー6 (GH6)に分類される触媒ドメインをもつ酵素は、どちらの生物も有している酵素であり、その機能はほぼ同じであると考えられています。しかし全体の構造は大きく異なっており、その設計コンセプトはかなり異なっているように思われます。そこで1分子蛍光計測でそれぞれの酵素及びその部分構造の吸脱着特性の比較を行ったところ、カビ由来酵素では糖鎖修飾されたリンカー領域が初期吸着に重要であるのに対し、バクテリア由来酵素では吸着ドメインのみでその役割を担っていることが分かりました。また酵素の性質が明らかになっている糸状菌由来酵素とバクテリア由来酵素のドメイン構成を比較すると、糸状菌由来酵素では糖鎖修飾リンカーが多くの酵素に保存されているのに対し、バクテリア由来酵素では吸着ドメインの保存性が高いことが分かりました。すなわち糖鎖修飾を行う事ができる糸状菌ではリンカー境域を含めて吸着能をもたせているのに対し、一般的に糖鎖修飾を行わないバクテリアでは吸着ドメインをより強力なものにすることで同様の機能を付加していることが明らかとなりました。

 

対応業績

DOI: 10.1074/jbc.RA120.014792

 

 

(2)キチン加水分解酵素

 

作成中

 

 

(3)ヒアルロン酸分解酵素

 

作成中

 

 

(4)ポリエチレンテレフタレート加水分解酵素

 

ポリエチレンテレフタレート(PET)は飲料ボトルや衣類(ポリエステルと書かれているものの多く)などに使われている身近なプラスチックです。現在のところ石油から新しく合成する方がコストが安く、廃棄PETを分解して再重合するリサイクルに対する動機は強くないと言えます。しかし環境汚染の低減や循環型社会の構築に向けては避けられない問題です。排熱などを用いて温めるだけでPETを分解できる酵素を作成するため、PET分解活性が報告されていたPET2酵素の改良を行いました。天然型酵素(WT)に対して7つの変異を入れた酵素(7M)では至適な条件下で6.8倍の分解活性の向上が見られました。またこの活性向上の理由は1分子計測を用いた吸着と脱着の詳細解析の結果、酵素表面の正電荷によりPET表面に吸い寄せられることで約3倍の活性上昇が達成されていること、残りは反応温度上限が上昇したことによる向上ということがわかりました。

 

対応業績