吉田寛研究室

(この記事で使われた画像は吉田先生にご提供いただいたものです。個人が特定されないよう配慮しましたが、不都合等がありましたらご連絡ください)

吉田研究室は、これまでの人間の思想・考えかたがどういうふうに変化しているか、を探求しています。情報学部に所属しているので、特に情報機器やそれを使った発信について考えています。

たとえば、人工知能の登場で人間に対する考え方か、知識が変わろうとしているか、今後の人間社会がどういう方向に進んでいくのか、が考察の対象です。

インスタグラムやX(旧Twitter)などのようなSNSのなかに、思想や考え方がどのように入り込み、広がっているか、について考えています。SNSの分析も吉田寛研究室の研究の範囲です。

・吉田先生の担当科目
具体的には「情報社会思想」という科目を担当しています。そこでは、情報社会を作ってきた技術者が持っていた思想はどういうものかを最初に検討しています。また、情報社会の一面であるかもしれない「監視社会」について考えています。

そもそも「監視」とは何か、ITが作る理想像はどのようなものかを踏まえ、ロボットと共存する社会、について互いに意見を交わしながら、考えていきます。

一方的に担当教員が話すのではなく、受講生の意見を汲み取りながらこの授業なりの結論にたどり着こうと思っています。

夕方の授業(16:05-17:35)なので、高校生(1~3年の全学年)にも公開されています。高校生が参加していたこともありました。この科目は「高大連携科目」と呼ばれ、近隣の高校と協定を結んで受講してもらっています。(浜松の高校生で、この科目を受講したい人は、学校の先生に相談してみてください)

思想と芸術」という科目も担当しています。
高校の倫理社会と違って、昔の哲学者のことばではなく、自分の問題として考察しています。

「夢と現実を区別できるか」「言葉で言いたいことを伝えられるか」などのほか、アニメ作品も取り上げるなど、具体例を挙げて、受講生全員と対話しながら、それぞれの考えに到達することを求めています。

PBL」も担当しています。「PBL」とは、「Project Based Learning」や「Problem Based Learning」などの略称とされています。

一般に、「課題解決型学習」や「問題解決型学習」「プロジェクト型学習」などと訳されています。この科目は、1年生の必修科目で、情報学部で学んでいく上で必要なスキルや態度を学ぶことになっています。

この授業では、グループワークを通して、グループを通して一人では到達できないところまで到達するセンスを養います。多くの学生は、この授業で学ぶことによって、学問に主体的に立ち向かう楽しみが得られます。

・吉田研究室の過去の卒業研究
毎年たくさんの卒業研究が吉田研究室では提出されますが、そのなかでもユニークな卒業研究を2つご紹介しましょう。

1つ目は、「死者AIが許される条件」です。
具体的なテーマは「死者AIが許される条件にどのようなものがあるか」というものです。この卒業研究を学生が取り組もうとした背景は生成AIの普及が出発点です。生成AI によって表情や態度、話す内容が、他人によって「再生」する時代になっているという点です。

あなたが会ったこともない、明治初め頃の遠い先祖が白黒写真のなかから「よみがえ」って、カラー動画の人物としてあなたに微笑みかけ、親しく言葉を発したら、あなたの心にはこみ上げてくる感情がきっとあるでしょう。

では、あなたがかつて一緒に暮らし、まだ記憶にある故人の画像に手を加え、他人の意図のもとに動かし、勝手な内容をしゃべらせたら、あなたはどう思いますか。

あるいは、子供の頃に飼っていたペットが古い写真の中から「よみがえ」り、あなたを見つめながら近づいてくる動画はどうでしょうか。

この卒業研究では、その点を踏まえ、故人を「人工知能」で「再現」することがどのような場合に許され、どのような場合に許されないかを検討しました。

本人の思い、家族の思い、第三者の思いの優先順位をどうつけるか、プライバシーがどこまで存在するか、人権・尊厳がどこまで尊重されるか—-その点を意識し、この論文は書かれました。

2つ目の卒業研究は、「サードプレイスにおける社会志向と個人志向」です。「サードプレイス」とは、自分が所属する社会、コミュニティにおいて、自宅(ファーストプレイス)とも学校や職場(セカンドプレイス)とも異なり、そこから隔離された、自分にとって心地のよい時間を過ごせる第三の居場所(サードプレイス)のことを指します。

この卒業研究では、大学生にとって、学校でも自宅でもない居場所を活用していくかという問題に取り組みました。

なぜ「サードプレイス」が求められるかというと、自宅でも学校でも、何らかの「役割」が自分に求められる結果、自分はいつも求められる役割を演じることになってしまいます。「それって本当の自分と言えるのか」という疑問がこの論文の出発点です。

では、どうすれば役割を演じないで、本来の自分にたどり着けるか。
そういう場所を大切にすることにどういう意義があるか。
サードプレイスを活用することでどのような可能性を見いだせるのか。

この学生は休学して国内の島に行き、そこで「島留学」を経験して、その経験を卒業研究の基礎としました。この学生は島で、自分でいられる場所をどう見つけ、自分を拡張し、社会との交流を活かしながら生きていく実践を行い、その経験を思索の対象としました。

その結果、社会の中でことさらに自分を作らないで、本来に近い自分を広げていく試み、自然のままのこころを抱いて自分を肯定して生きる道を考察し、論文にしました。

単に自分自身の経験だけに依拠するのではなく、カフェや広場の責任者などにインタビューして、多方面から考察し、自分の経験だけでなく、調査と理論も含めた内容を持つ優れた論文となりました。

・吉田研究室の自主ゼミ(授業外の自主的な研究会)
吉田研究室内には、珈琲研究会があります。実態は、実は吉田先生もすべて把握していないという、学生主体の自由な研究会です。時間の拘束も金銭的負担もありません。

コアメンバーが5人で、時々参加する人もいれると、15人くらいです。情報学部だけではく、工学部の学生もいます。2013年から続いているので、もう10年以上活動していることになります。

生まれたきっかけは、静岡大学図書館浜松分館でカフェを吉田研の学生が提供したことです。それ以降、ずっと継続しています。会費等はなく、カンパで運営しているのも特徴の一つです。コーヒー豆も機器もすべてカンパで購入しています。

この研究会は、大学の諸行事に呼ばれてカフェを提供することもあります。また、学内で月に一度くらいのペースでカフェコーナーを作って、皆さんに美味しいコーヒーを提供しています。

この研究会はまず、美味しいコーヒーの淹れ方を研究しています。豆の選び方に始まり、その豆をどう扱ったら美味しくなるか、地道に研究しています。理系のひとはデータを活用しつつ、特に淹れ方にこだわっているなど、普段どういう点に意識をおいているかという生態に差が生まれます。


コーヒーを単に飲み物を提供するだけでなく、カフェを起点にして、教員・職員・学生がどうコミュニケーションを作れるか、についても研究しているのが特徴です。

物質としてのコーヒーと、文化としてのコーヒーの両面を考えています。浜松キャンパスには多くの学科があり、多様な考えを持ったひとが集まっています。その人たちが「カフェ」という場所で集まります。

その人たちの中には、研究対象、考え方、生活スタイルなどの共通点や相違点があります。そういう人たちがそこでどのような刺激を受け、あるいは、多様性を認識するのか、を経験し、実践につなげていくかの試みの場所でもあります。

吉田研究室にはもう一つ、別の自主ゼミがあります。
ガバナンス研究会」がそれで、通称、「ガバ研」です。
ガバナンスとは、「統治」「統制」「管理」を意味する言葉ですが、ここでは広く考えて、思考や意思決定などの面で、ものごとを決めていくあらゆるプロセスを指します。ですので、テーマはさまざまです。各自が自由なテーマを自分で作り、意見交換する場として活動しています。

ここでの成果をどう活用するかも自由です。もちろん、卒業研究につなげていくことも可能です。

この研究会では、まず、知識や関心の幅を深めることに主眼を置いています。素材としては本を輪読することもありますし、SF映画を視聴して語り合うこともあります。

・卒業研究合宿
山梨の富士五湖で行うことが通例です。この日までに卒業研究の準備をし、論文構想について発表し、意見交換をします。
OBOGも参加するので、全部で20人くらいになります。
卒業研究をすでに経験した先輩から助言をもらえるので、実践的な場になります。