研究テーマ

当研究室は、各メンバーの自由な発想やアイデアに基づき、さまざまな研究に取り組んでいます。ここに書かれた研究テーマ以外にも多くの研究を手掛けていますので、詳しくは教員(田中)までお問い合わせください。

 

 

1.木材や木質材料のガス透過性の測定をしています。

当研究室では、木質科学の分野における一般的な方法や当研究室で開発した独自の方法に基づいて、木材や木質材料のガス透過性 (gas permeability) の測定をしています。今後はこうして測ったガス透過性を、木質材料の透湿抵抗や木造住宅の性能などと関連づけていくことが期待されます。

関連研究成果:
https://doi.org/10.50925/noaj.2
https://www.jwta.or.jp/publication/journal.html?y=2021&m=12
https://doi.org/10.4067/s0718-221×2021000100406

 

2.合板の接着層が引張破壊する様子を明らかにしようとしています。

当研究室では、合板の小試験片に引っ張り力を加えたままの状態でX線マイクロCT装置に供するための専用の治具を開発しました。これを用いて、ヒノキ合板やラワン合板の小試験片を少しずつ引っ張りながら断続的にX線CT観察することで、接着層の破壊する様子を明らかにしようとしています。今後はこの成果を木材接着のメカニズム解明や新規接着剤の開発などにつなげていくことが期待されます。

 

 

3.合板が屋外で劣化する様子を明らかにしようとしています。

当研究室では、各種コーティングを施した合板の小試験片を静岡大学農学部の敷地内にある架台に設置し、目視による表面観察や測色計を用いた合板表面の色調変化の測定に加えて、定期的にX線マイクロCT装置に供することで試験体内部の透視観察をしています。降水や日射が合板の表面状態や内部状態にどのように影響するのかや、各種コーティングの作用を明らかにしようとしています。今後はこの研究成果を木材や木質材料の劣化のメカニズムの解明や新規コーティング技術の開発などにつなげていくことが期待されます。

 

 

4.木材に浸透させた物質の分布やその動きを観察しています。

木質材料の製造の際にはさまざまな接着剤や保存剤、難燃薬剤、塗料等が使用される場合がありますが、そういった添加物質の木材の中での存在位置や組織構造依存性はまだ十分に分かっていません。そこで当研究グループは、最新の産業用X線CT装置を活用し、ただでさえ複雑な組織構造をもつ木材に接着剤を塗ってそれを貼り合わせて作られた木質材料の接着層に形成される極めて複雑な木材細胞壁-接着剤ネットワークの内部を、何の造影物質も添加することなしに良好なコントラストで木材細胞壁を視認できるレベルで透視観察する技術を確立しました。

木材には、接着剤以外にも、難燃薬剤や保存薬剤、低分子フェノール、塗料等、さまざまな物質が含浸、または塗布されます。その物質の材内分布やその経時変化を明らかにするためのX線イメージング技術の開発に取り組んでいます。当研究室はこれまでに、木材に含浸させた銅系保存薬剤や低分子フェノールの材内分布を可視化することに成功しています(上図)。似たような含浸のさせ方でも、含浸させる物質の種類により、その木材内での最終的な存在位置が大きく異なることが示唆されました。木材に何らかの物質を添加したり塗布したりする場合は、添加物質が木材の内部にまで届いてほしい場合もあれば、逆に表面に留まっていてほしいこともあります。こうした透視技術は、そういった人間側の意図が木材に対してどこまで達成されているのか、もし達成されていないのなら、それをどうすれば達成できるのか、そこを検討する手がかりになりえます。今後、撮影や計測の対象を他のさまざまな物質に広げていこうと考えています。

木材小試験片を塩化セシウム水溶液に含浸、減圧により飽和させたあと、その乾燥過程を定期的に撮影したところ、時間の経過に伴い、木材の周囲のみがX線を強く遮るようになりました。これは溶解物質である塩化セシウムが乾燥に伴って表面に集まったことを示しています。この現象は以前から理論的には予測されていましたが、この写真により、その表面蓄積過程が世界で初めて可視化、実証されました。その後の実験で、この現象には物質の種類や木材の組織構造、そして乾燥温度が深く関わっている可能性が示唆されています。X線CTを用いてこの現象を三次元的に解明しようと考えています。将来的には、木材の放射能除染や難燃木材の白華抑制などの応用につなげられたらと考えています。

 

5.木材の状態や性能のX線センシングと非破壊計測

森林で伐採された樹木は、いくつかの工程を経て木材や木質材料になります。その工程のなかでもっとも環境負荷の高いのは、加熱に多くのエネルギーを投入する必要のある乾燥工程であると言われています。つまり木材乾燥工程のさらなる効率化、省エネ化が望まれています。そのためには、これまでの電気抵抗式や誘電式、マイクロ波方式の木材含水率計よりも正確に測定できる含水率測定技術を開発することが役立つかもしれません。当研究室は、X線を利用したいくつかの新しい木材含水率の非破壊計測メカニズムを提案してきました。現在は、X線の光子1つ1つを数えあげることのできる最新のセンサーを利用し、厚い木材であってもスピーディーでかつ精度よく含水率を測定することができるような技術開発に着手しています。将来的には、世界中のすべての木材工場に導入されるような、画期的な測定技術を確立できたらいいなと考えています。

 

6.木質素材の熱特性や水分特性、機械特性の強化・機能化

木材は、セルロースやヘミセルロース、リグニンといった複数の天然高分子化合物が複雑に絡み合い、それが細胞壁を形成しています。そしてさらに、細胞壁は多くの空隙、つまり大量の空気層を伴いながらも束になっており、これが木繊維を形成しています。加えて、その繊維は配向しており、つまり異方性を有します。そして、木材を構成する細胞にも、いくつかの種類があります。さらに、それらすべてが生物学的なばらつきを有しており、均質とは言い切れません。このような事情から、木材は極めて複雑な構造とその生物学的ばらつきを平面的、あるいは立体的に有しています。人間はそれに対して、何らかの機能を付与するため、切削、乾燥、接着、また他の加工をして、結果的にさらに複雑な高次構造を有する材料になることがあります。このような複雑な高次構造は、最終的な木製品のさまざまな巨視的な性質(例えばヤング率、強度、熱伝導率、吸放湿性、寸法安定性、ガスバリア性など)に密接に影響を及ぼしているのですが、そのような高次構造と巨視的性質の関係はあまりに複雑であり、したがって人類はまだ完全には解明しきれていません。

最近、比較的簡単な化学処理と圧縮処理により、木材の比強度を飛躍的に高めたり、接着剤を用いずに接着したりすることが試みられつつあります。木材を各種先端高分子素材と組み合わせることにより、これまでにない新たな特性を持った機能性材料の創出についても研究しています。究極的には、リグノセルロース系天然高分子素材を用いて、圧倒的な省エネ性能の建築部材を実現したり、数千メートル級の構造物が作れるような高比強度素材が作れたらいいなと思っています。