1 木材接着層に形成される木材細胞壁-添加物質ネットワークの三次元形態の透視観察
木質材料の製造の際にはさまざまな接着剤や保存剤、難燃薬剤、塗料等が使用される場合がありますが、そういった添加物質の木材の中での存在形態やその組織構造依存性は十分に分かっていません。そこで当研究グループは、最新鋭の工業用X線CT装置を利用し、ただでさえ複雑な構造をもつ木材にさらに接着剤や含浸フェノール、保存剤、塗料等の高分子/無機化合物が木材に浸透して形成される極めて複雑な木材細胞壁-添加物質ネットワークを三次元的に可視化する方法を確立しようとしています。将来的には確立された観察技術を利用し、木材接着強さの発現メカニズムの解明や、それを利用した新規材料開発に挑みます。
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写真1 X線CTによるラワン合板の透視観察のようす |
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写真2 画像処理ソフトウェアVGSTUDIO MAXによるX線CT断層像の分析のようす |
2 木質材料の熱水分移動モデルの構築
木材の基本的な熱湿気物性や木材中の熱水分移動メカニズムは概ね明らかになっていますが、木質材料はそれにさらに接着剤要素が加わる複雑な形態の材料であることから、熱湿気物性の基礎的データがまだ十分に明らかになってはおらず、また熱水分移動のメカニズムについてもよく分かっていません。そこで当研究グループは現在、木質材料の熱湿気物性値を一つ一つ明らかにするための他の研究機関との共同研究を進めています。将来的にはどのような構成の木質材料であっても、その材料の中を熱や水分がどう流れるかをうまく説明できるようなモデルの構築を目指します。
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写真3 当研究室の提案している針葉樹合板接着層の熱湿気水分予測のための形態モデル |
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写真4 当研究グループの開発したエクセル上で動く熱水分同時移動シミュレーション |
3 木材の不均一性の把握と不均一性が木材の特性に及ぼす影響の解明
木材は生物由来の不均一な材料で、そのことが木材の利用方法に大きな影響を与えています。当研究グループは、X線的手法により木材の密度分布のヒストグラムを取得し、そのヒストグラムから得られるさまざまな統計的代表値のいくつかが木材の曲げ強度と密接な関連があることを見出しました。現在、この技術をより正確な強度予測につなげるため、密度分布計測を三次元に拡張するための研究に取り組んでいます。
4 木材乾燥過程における含有物質の再分布現象の解明
木材自由水中に均一に溶解した物質が乾燥過程で木材表面に集まる現象は非常に面白い現象であり、以前から理論的に予測はされていましたが、当研究グループはX線技術を利用してその表面蓄積過程を世界で初めて可視化、実証することに成功しました。この現象は放射能汚染木材の除染技術への応用も可能と考えられており、当研究グループではX線CTを用いた当該現象の三次元観察により、この現象の詳細を解明するための研究に取り組みます。
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写真5 自由水に溶解した塩化セシウムの木材乾燥後の沈殿位置。塩化セシウムは表面付近に高濃度で析出することを発見。 |
5 X線を利用した新しい木材含水率計測手法の提案
電気抵抗式や誘電式、マイクロ波式の木材含水率計は世界中で広く使われていますが、厚さのある木材の表面と内部で不均一な含水率が形成されている場合など、場合によっては正確性が十分ではないことが問題になっています。そこで当研究グループは、X線を利用した新しい木材含水率の計測手法の開発に取り組んでいます。現在は、X線の光子1つ1つを数えあげることのできるセンサーを利用して、木材の含水率を圧倒的にスピーディーでかつ精度よく測定することはできるのではないかという仮説を立て、その仮説を検証するための研究に取り組んでいます。
6 日本における木材の年平均平衡含水率の長期変化の推計と将来予測
木材の気候値平衡含水率は、日本のほぼすべての気候基準地点で、またいくつかの世界都市で数十年のスパンで低下傾向にあることを当研究グループは発見しました。今後は、幅広く世界中の気候データを集め、この低下傾向の検証に取り組みたいと思っています。
7 木材研究以外の農学研究
農学研究者は、自らの専門分野の発展に貢献するだけでなく、専門分野で培った知見や分析手法を農学全体に還元・貢献していく姿勢が求められます。そこで当研究グループは、近い将来、木材研究で培った知見や分析手法をさまざまな農学研究に水平展開していきたいと思っています。