Samironさんたちの「緩衝液中のGUV膜中に浸透圧が誘起する膜張力」の論文が、アメリカ化学会 の J. Phys. Chem. B に掲載されました ( J. Phys. Chem. B. 124, 5588-5599, 2020) [Abstract]。この論文では、生理的な濃度のイオンを含む緩衝液中のGUVに浸透圧をかけたときに、GUVの膜にかかる張力を実験的に測定することに初めて成功しました。実験的に求まった膜張力は、理論的に求められた膜張力と実験誤差範囲内で一致しました。今まで、GUVに膜張力を与える方法としてマイクロピペット吸引法が使用されてきましたが、この方法では外力や抗菌ペプチドで膜にポアが形成されるとすみやかにGUVがマイクロピペット内に吸引されるので、ポア形成中やその後のGUVが観測できませんでした。それに対して、上記の浸透圧法では、ポア形成中やその後のGUVを観測できる利点があります。またこの方法を用いて、脂質分子の二分子層膜横断(フリップ・フロップ)の速度定数が膜の張力が増大するにつれて大きく増大することを見出し、その結果がマイクロピペット方で求めた結果 (J. Chem. Phys. 148, 245101, 2018)と定量的に一致することを見出しました。