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Hazratさんたちの「ラベルされていない抗菌ペプチド・PGLaの膜透過とGUV内腔への侵入」の論文が、BBA-Biomembranes に掲載されました (1863, 183680, 2021)[Abstract]。この論文では、最近我々の研究室で開発された方法 (Biochemistry, 59, 1780, 2020) を用いて、蛍光プローブでラベルされていない抗菌ペプチド・PGLaのGUVの内腔への侵入をCLSMを用いた単一GUV法により研究した。その結果、低い濃度のPGLaはGUVの膜にポア形成をせずに膜を透過してGUV内腔に侵入することを見出した。PGLaの侵入速度はペプチド濃度ともに増加した。高濃度のペプチド存在下では、ペプチドのGUV内腔への侵入後に膜にポア形成が誘起された。PGLaの単一GUV内腔への侵入とGUVの膜面積の変化を同時に測定する方法を開発し、GUVの膜面積が最初の一定値から最後の一定値に変化する間に、PGLaがGUV内腔へ侵入することを見出した。このことは、PGLaが外側の単分子膜から内側の単分子膜に移行するときに、GUV内腔へ侵入することを意味している。PGLaの単一GUV内腔への侵入速度は膜の張力の増加とともに増大した。これらの実験結果に基づき、PGLaの膜透過やベシクル内腔への侵入のメカニズムを考察した 。

Farzanaさんたちの「ラクトフェリシンB  由来の6残基の抗菌ペプチド の細胞内侵入やベシクル内侵入に対する膜電位の効果」の論文が、アメリカ微生物学会 (ASM) の J. Bacteriology に掲載されました (203, e00021-21, 2021) [Abstract]。この論文では、蛍光プローブ・リサミンローダミンBレッド (Rh) をラベルした6残基の抗菌ペプチド であるLfcinB (4-9) (Rh-LfcinB (4-9)) と1個の(蛍光プローブ・カルセインを細胞質に含む)大腸菌細胞との相互作用を共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で研究し、低濃度のRh-LfcinB (4-9)がカルセインの漏れを起こさずに大腸菌の細胞質に侵入することを見出した。この結果は細胞膜にポア形成などの損害を与えずに、このペプチドが細胞質に侵入することを示している。一方、H+-イオノフォアであるCCCP存在下では、ペプチドは細胞質に侵入できなかった。CCCP存在下では膜電位が損失することが知られているので、ペプチドの細胞質侵入には膜電位が重要な役割を果たしていることが分かった。タイムキルアッセイ法により、この低濃度のペプチドは短時間で大腸菌を殺す活性を持つが、CCCP存在下ではその活性が阻害されることが分かった。また、Rh-LfcinB (4-9)と1個の大腸菌スフェロプラストの相互作用をCLSMで研究し、カルセインの漏れを起こさずにRh-LfcinB (4-9)がスフェロプラストに侵入するが、CCCPが侵入を阻害することを見出した。次に、Rh-LfcinB (4-9)のE.coli-lipid GUVの内腔への侵入に対する膜電位の効果を、最近我々の研究室で開発された方法  (Biophys. J. 118, 57, 2020) を用いて研究した。GUV内腔への侵入の速度を意味するペプチドの内腔への侵入の確率は負の膜電位の増加とともに増加することを見出した。以上の結果は、膜電位がRh-LfcinB (4-9) の大腸菌細胞質やGUV内腔への侵入の速度を増大させ、その結果細胞死が誘起されることを示している 。

Mamunさんたちの「抗菌ペプチド・マガイニン2のポア形成に対する膜電位の効果」の論文が、BBA-Biomembranesに掲載されました(1862, 183381, 2020) [Abstract]。この論文では、マガイニン2 (Mag) のGUVの膜中のポア形成に対する膜電位の効果を、最近我々の研究室で開発された方法 (Biophys. J. 118, 57, 2020) を用いて研究した。ポア形成の速度定数kpは負の膜電位の増加とともに増加することを見出した。また、蛍光ラベルしたMag(CF-Mag)とGUVの相互作用を共焦点レーザー顕微鏡により観測すると、GUVの外側の単分子膜の膜界面でのCF-Mag濃度(XOM)の時間変化を測定することが可能である。負の膜電位が増加するにつれて、XOMは増大した。さらにこの結果を理論的に解析し、実験結果を合理的に説明することに成功した。この現象のメカニズムとして、負の膜電位の増大につれてCF-Mag の外側の単分子膜の膜界面での濃度(XOM)の増加が起こり、それが内側単分子膜の張力を増大させてポア形成の速度定数を増大させたと考えられる。

Samironさんたちの「緩衝液中のGUV膜中に浸透圧が誘起する膜張力」の論文が、アメリカ化学会 の J. Phys. Chem. B に掲載されました ( J. Phys. Chem. B. 124, 5588-5599, 2020) [Abstract]。この論文では、生理的な濃度のイオンを含む緩衝液中のGUVに浸透圧をかけたときに、GUVの膜にかかる張力を実験的に測定することに初めて成功しました。実験的に求まった膜張力は、理論的に求められた膜張力と実験誤差範囲内で一致しました。今まで、GUVに膜張力を与える方法としてマイクロピペット吸引法が使用されてきましたが、この方法では外力や抗菌ペプチドで膜にポアが形成されるとすみやかにGUVがマイクロピペット内に吸引されるので、ポア形成中やその後のGUVが観測できませんでした。それに対して、上記の浸透圧法では、ポア形成中やその後のGUVを観測できる利点があります。またこの方法を用いて、脂質分子の二分子層膜横断(フリップ・フロップ)の速度定数膜の張力が増大するにつれて大きく増大することを見出し、その結果がマイクロピペット方で求めた結果 (J. Chem. Phys. 148, 245101, 2018)と定量的に一致することを見出しました。

 

Madhabiさんたちの「蛍光ラベルされていない細胞透過ペプチド・トランスポータン10の単一ベシクル内腔への侵入の検出」の論文が、アメリカ化学会 の Biochemistry  に掲載されました (Biochemistry, 59, 1780-1790, 2020 ) [Abstract]。今まで、細胞透過ペプチド (CPP) の細胞内への侵入や単一巨大リポソーム (GUV) の内腔への侵入の検出には、蛍光ラベルされたCPPが使用されてきました。この論文では、蛍光ラベルされていない(ラベルフリーの)CPPの単一GUV内腔への侵入を検出する新しい方法を開発しました。この方法では、GUVはその内腔に高濃度の蛍光プローブ・カルセイン (自己消光により蛍光強度は小さい)を含むLUV を含んでおり、もしCPPがGUV内腔に侵入してLUVの膜にポアを形成すれば、カルセインがGUV内腔に拡散して蛍光強度が増大します。そのため、LUVの脂質膜組成はGUVのそれとは異なっており、CPPが膜中にポア形成をしやすいものを選んでいます。その方法を用いて、トランスポータン10 (TP10)とGUV(蛍光プローブAF647と上記のカルセインを含むLUVをその内腔に含む)の相互作用を共焦点レーザー顕微鏡を用いて研究しました。TP10との相互作用が進むにつれて、GUV内部のカルセインの蛍光強度は時間とともに増大したが、AF647の蛍光強度は変化しなかった。この結果は、ラベルフリーのCPP(TP10)が膜にポアを形成せずに、GUV内腔に侵入したことを示しています。

 

 

Mizanurさんたちの「細胞透過ペプチド・トランスポータン10の単一ベシクル内腔への侵入に対する膜電位の役割」の論文が、アメリカ生物物理学会 の Biophys. J.  に掲載されました ( Biophys. J. ,118, 57-69 (2020)) [Abstract]。この論文では、細胞透過ペプチド (CPP) の膜透過や単一巨大リポソーム (GUV) の内腔への侵入に対する膜電位の効果を調べる方法を開発しました。単一GUVにかかっている膜電位は、蛍光プローブを用いて共焦点レーザー顕微鏡法 (CLSM) により測定しました。蛍光ラベルしたCPPの単一GUVの内腔への侵入の検出は、我々が開発した単一GUV 法 を用いています。この新しい方法を用いて、蛍光ラベルしたトランスポータン10 (TP10) (CF-TP10) のGUVの膜透過の速度やポア形成なしのCF-TP10の単一GUVの内腔への侵入が膜電位の増加とともに増大することを発見しました。膜電位の増加によりペプチドの膜透過速度の増加が、単一GUVの内腔への侵入速度の増加の主因であると結論しました。

 

 

Farzanaさんたちの「抗菌ペプチド・ラクトフェリシンB (LfcinB) が誘起する細胞膜や脂質膜からの急速な膜透過には膜電位が重要な役割を果たす」の論文が、アメリカ生化学会・分子生物学会 (ASBMB)の J. Biol. Chem. に掲載されました (J. Biol. Chem. 294, 10449, 2019) [Abstract]。この論文では、まず LfcinB が大腸菌や大腸菌のスフェロプラストから急速な膜透過を誘起することと膜電位の消失によりそれらが阻害されること見出しました。次に大腸菌の脂質から構成される巨大リポソーム (GUV)に対して LfcinB が局所的な膜破裂を誘起し、その速度が負の膜電位が大きくなるにつれて増大することを見出しました。これらの結果は抗菌ペプチドが誘起する膜のダメージ(またはその結果生じる膜透過の増大)が膜電位に依存することを初めて直接的に示したものです。

Moynulさんたちの「脂質分子の二分子層膜横断に対する膜張力の効果」の論文がアメリカ物理学協会 (AIP) の J. Chem. Phys. に掲載されました ( J. Chem. Phys. 148, 245101, 2018) [Abstract] [PDF]。この論文ではまず、巨大リポソーム(GUV)を用いた脂質分子の二分子層膜横断(フリップ・フロップ)の速度定数 kFF を求める方法を開発しました。この方法では、まず蛍光プローブでラベルされた脂質 (NBD-PG および NPD-LPE) が内側の単分子膜にしか存在しないGUVを、最近我々が開発した方法 ( Langmuir, 34, 3349, 2018) により作成しました。上記の蛍光ラベル脂質によるGUV膜の蛍光強度を共焦点レーザー顕微鏡により測定し、その解析によりNBD-PG や NPD-LPEのフリップ・フロップの速度定数 kFF を求めます。この方法を用いて、膜の張力が増大するにつれて、膜にポア形成をすることなく kFF が大きく増大することを発見しました。この結果は、これらの脂質分子が親水性のプリポアの壁面を拡散することにより2分子膜を横断することや、プリポアの形成頻度が膜張力の増加に伴い増大することを示しています。

ZahidulさんやSabrinaさん達の「細胞透過ペプチドの脂質膜ベシクルや細菌の細胞への侵入の素過程」のミニ総説がApplied Microbiology and Biotechnologyに掲載されました。 (Appl. Microbiol. Biotechnol., 102, 3879-3892, 2018) [Abstract]   [PDF]。この総説では、3種類の方法による細胞透過ペプチドの脂質膜ベシクルへの侵入のこれまでの研究がまとめられ、それらの方法論の利点と欠点が記載されています。特に、その中の一つである我々が開発した小さな巨大リポソーム(GUV)を内腔に含むGUVを用いた方法について詳細に記載されています。さらに、細菌の細胞への細胞透過ペプチドの侵入の研究についてもまとめられています。

Moynulさん達の「抗菌ペプチド・マガイニン2のポア形成の初期過程のメカニズム」の論文がアメリカ化学会のLangmuirに掲載されました (Langmuir, 34, 3349-3362, 2018)  [Abstract]。この論文では、まず外側と内側の単分子膜中の脂質分子の非対称的な分布に基づく非対称的な脂質のパッキングを持つ巨大リポソーム(GUV)の構築法を開発しました。次に、その非対称的な脂質のパッキングがマガイニン2のポア形成の速度定数に大きな効果をもたらすことを見出しました。また、マガイニン2のポア形成の定量的な理論を構築し、それが実験結果を良く説明することを示しています。さらに、脂質分子の二分子層膜横断の速度とマガイニン2が誘起するポア形成の相関についても記載されています。