研究内容

研究テーマ

行動計測・解釈

 特にバーチャルエージェントを用いたインタラクションの実験をするときに、人間が自然にインタラクションすることができる環境が必要になることがある。また、エージェントのような、多くの要素が複合的に実装されるようなシステムの場合、複数のシステムを統合的に利用したり、あるいは、未だに存在しないシステムを人間が肩代わりできる環境(Wizard of OZ: Wozと呼ぶ)が必要となる。そういった環境として、Immersive Collaborative Interaction Environment (ICIE)という環境を整備している。

 この環境は、8枚の大型ディスプレイで囲まれた没入型提示システムが主要なハードウェアであるが、この環境全体を制御するプラットフォーム Distributed Elemental Application Linker(DEAL)が環境の重要な役割を持っている。このプラットフォームは、実行場所・動作条件・実行主体が異なるモジュールを統合して利用することができる(システムは内部のみ公開)特徴は下記の通り。

  • プラグインによって機能を拡張することが可能。
  • アプリケーションもプラグインの形で実装。
  • BlackBoardを介したTriggerを、他のアプリケーションが参照・改変可能。
  • すでに完成しているアプリケーションの内容を変えずに、内部データを利用可能。
  • 非同期ネットワーク通信機能をDEALシステム自体が持つ。

 このようなインタラクション実験や実証の環境を用いて、人間とエージェントのインタラクションにおける問題や、新たなインタラクションの形を探る研究を行う。時には、実験に必要な情報を取得するために、新たな計測システムを開発することもある。

エージェント開発

  人間とエージェントがインタラクションを行う際に、最も重要なのはエージェントが持っている情報処理能力・タスク遂行能力であることは間違いない。その一方で、エージェントが特定のタスクに対して非常に高い問題解決能力を持っていたとしても、インタラクションする人間がエージェントのことを「機械だ」と思ってしまうと、人間同士の場合であれば起こるようなインタラクションが実現しなくなる。例えば、対戦ゲームでCPUと対戦しているときと人間と対戦しているときとで、明らかに戦略が異なる場合がよく見られる。これは単純にCPUが弱いだけでなく、人間同士では行わない卑怯な戦略をとったりすることを指す。

 人間が相手のことを意図を持った存在であると認識する心理的な姿勢を「志向姿勢」と呼ぶ。現在は、このような「志向姿勢」を人間がエージェントに対して持つようなエージェントの開発を行っている。一例として、エージェントが一定の目的志向性を人間に提示すると、対戦ゲームであっても、エージェントに対して卑怯な戦略をとらなくなることが実験的に示されている。

 あるいは、1対1ではなく、1対多のインタラクションを行う際に、エージェント同士のインタラクションを人間に見せることによって、どのようなインタラクションが「自然」なのかを暗黙的に学習し、エージェントに対する好感度が上がったり、エージェントのミスを許してあげたりすることができるようになることを実験的に確かめた。

 これらの場面では、動的に環境が変わっていく中でエージェントが人間の意図を読み取った意思決定をしていかなくてはならないが、それを実現するインタラクションモデルの一つとして「循環的意図更新モデル」を提案し、これによってエージェントに対して意図を感じる割合が高くなったり、実際にエージェントが配慮を要求した際に聞き入れる確率が高くなったりすることを確かめた。

 基本的に、インタラクションにおける重要な要因を、人間同士のインタラクションの観察や先行研究から見つけ出し、それを実装したエージェントと人間を実際にインタラクションさせてみて、その有用性を確かめるというアプローチを取っている。インタラクションさせる場面は、現実にあるようなタスクが本当はよいが、特に言語的なインタラクションを緻密に行うタスクはまだエージェントには難しいため、仮想的なゲーム環境を作成して、その場面において検証することが多い。

認知活動分析

 インタラクションというものは、時系列に沿って動的に変化することが当然のように起きる。また、ほとんどのインタラクションは、実施するたびに異なるプロセスを経て結果にたどり着く。さらに、インタラクションにおける人間の変化は、行動などの目に見えるところに起きるだけではなく、目に見えない心理的な部分にも多くの変化が起きる。
このような変化を純粋な観察のみから捉えるのは困難であるため、人間の生理的な反応や脳の活動を計測し、実験中に起きた人間の行動の変化と対応づけることで、一定の客観性を確保した評価を行おうとしている。

 直接的に生理的な反応を用いて人間の内部状態変化を捉え、人間に起きた目に見えない変化を捉えようとした研究として、人間のスキルの習得過程を評価する手法の開発がある。この研究では、人間がスキルを習得する過程で、スキルの習得が進むにつれて、タスクに対する難易度の感じ方が変わることを利用した。生理指標を計測して人間の受けているストレスを推定し、ストレスが相対的に減っており、タスクのスコアも向上しているときに、スキルの習得が進んだ、と解釈する方法である。

 また、人間がどこに注意を向けているのかを推定することは、インタラクションの状態を推定・評価する上で重要である。注意の状態を一般的な環境で推定するのは困難なので、刺激を与えたときにどのように反応するのかを見て、人間の注意の状態を誘導する手法を開発した。この手法を開発するために、音声、静止画像、動画像、の三つの種類で人間の生理的な反応と実際の視線の動きを計測・分析した上で、ノンパラメトリックベイズの手法を用いて生理反応の時系列をクラスタリングし、そのクラスターに基づいて注意状態を推定・誘導した。

 こうした手法を使って、人間の認知に影響を与える研究もしている。一例として、人間がゲームなどを行うときにアバターと呼ばれる自分の分身キャラクターを操作するが、アバターは自分ではない(自分にはない能力を持ち、自分にはない関係を他のキャラクターと結んでいる)ため、アバターが経験していることを操作している人間も経験していると感じることはまれである、という問題に取り組んだ。簡単に言えば、アバターが悔しがっていても、自分が悔しいとはあまり思わない、という状況を改善しようとした。生理反応から人間が強く心を動かされているかを推定し、心を動かされているときだけアバターがコンテキストに合わせた反応をするようにしたところ、アバターの置かれている状況を正確に理解するようになり、また、ゲームへの集中力が高まっていることが確認された。

 人間の知的活動を、特に時系列に沿って、動的に変化することをいかにして捉えるかを考え、実験を通して実際の反応を分析することで、有用な知見を得ようと試みている。