学習科学とは

現実場面における学習の質の向上を目指しつつ,その学習過程を解明する学問分野が「学習科学」です.従来では成し得なかったレベルの「学習」を実現していくために,学習過程を解明する認知科学研究と,最新の ICTを活用して学習環境を開発する工学研究を組み合わせた試みが多く行われています.1991 年に The Journal of The Learning Sciencesが発刊され,同時に国際会議が開かれ,「学習科学」という学問分野としての名称が登場しました.その後,2003年に国際学習科学会(The International Society of the Learning Sciences)が発足し現在に至ります.学習科学には三つの大きな特徴があります.一つは「学習者中心」の考え方を基盤とする点です.知識とは,基本的に個々人が主体的に構成するものだが,その過程は相互作用的で,文化社会の中,人と人,道具との相互作用を介して深める「協調的」なものです.そして獲得すべき知識は,状況に対し適応的に活用でき,必要に応じて再構築可能な「可搬性」「信頼性」「持続性」の三つを持ち合わせた状態である必要があります.また,ICTなど科学技術の進展により,協調的な知識構築場面をより強力に支援できるようになってきています.二つ目は,「デザイン研究」という研究手法を用いる点です.従来では統制された実験室内で短期の変化を追っていましたが,デザイン研究では,長期の複雑な実践場面を観察対象とします.「デザイン・実践・分析評価」のサイクルを繰り返す中で,徐々に高度な学習成果を目指し,データを蓄積していきます.またそのため多くの研究は,認知科学研究者,工学研究者,教師,また校長や地区の管理者らから成る,多彩なコミュニティ集団によって実施されています.三つ目は,長期の変化を詳細に見ていくことで,学習の質的変化や効果的な支援方法に関する研究を深めている点です.科学技術の進展で,個々人の学習過程がより容易に詳細に記録して分析できるようになりました.そのような中,数年にわたる長期のデータを研究対象としたり,実践規模を拡大して幅広い適用・普及を目指していく研究が行われています.(文責,益川弘如)