「Grit (やり抜く力)、アンジェラ・ダックワース著、ダイヤモンド社」を読んだ。人が何かの仕事を成し遂げたときなぜそれが出来たかを問えば、一義的にはやり抜いたからだという他ない。成し遂げるまで止めなかったからである。それでは、やり抜く力をどのように育むことができるであろうか。著者は環境がどのようにして個人のやり抜く力を鍛えるかについて報告している。やり抜くことが当たり前になっているチームに入ることが一つの方法という。それが習慣になっている人たちに囲まれて仕事をしていると、入った人もやり抜くことを当然のこととしてやるようになる。
自分が就職したときのことに思い当たる。職場の研究所にいる先輩方は当然のように国際学会で発表をしている。投稿の締め切りはいついつだから、それまでにデータを集めなければならない、などと言って仕事をされている。投稿論文に権利化できる新しいアイデアが含まれている場合は、投稿までに特許出願をしておかなければ投稿は許可されない。企業の研究所では、特許を取って製品の高性能化・高信頼性化・低コスト化に貢献し、それを学会で発表して技術の宣伝を行うことが研究者の仕事となっている。この環境に入った新人は、毎日やるべきことをやっているうちにこれが習慣となってしまう。
当時は、実際にそこに入って仕事をして初めて、そこがどんな環境か知ることができた。就職する前にどんな環境かを知ることはできない。自分が門をくぐった職場にたくさんのやり抜く人たちがいたことは、単に運が良かったというしかない。最近は在学中に企業で仕事をさせてもらえるインターンシップという制度がある。具体的な仕事を実際にやってみて、楽しさを感じられそうかを体験することが主な目的だと思うが、自分では当たり前には見えないけれど職場の人たちは当たり前にやっているような「何か」を注意深く見ておくことも大事だということになる。
自分の研究室をいい習慣の場にするにはどうしたらよいだろうか?例えば、卒研生は一度は学外で発表することになっているとか、院生は国際学会で発表をして自分の研究をアピールする習慣がある、となっていればいいように思う。やり抜くことを身につけた人は新しいことにもやり抜ける傾向にある(前掲書)。学生時代にやり抜くことを身につけて社会で自分の足跡を残せるよう、研究室の在り方を工夫していきたい。