RESEARCH

0. 電池についての基礎


 みなさん、電池がどのような構成でどのようなメカニズムで働いているかご存知ですか?電池は大きく3つの要素で構成されています。「正極(Cathode)」、「電解質(Electrolyte)」、「負極(Anode)」です。それぞれの要素を隔てるセパレータというものも含まれますが、基本的な動作原理を考える上では先述の3つが非常に重要です。電池は基本的に同じ構成をしていますが、電池には『一次電池』と『二次電池』があります。一次電池は使いっきり、充電ができない電池です。二次電池は繰り返し充放電ができる電池です。現在は電気デバイスが発展してきていますから、二次電池は切っても切り離せないほど密接な材料であるということですね。今みなさんのスマートフォンやパソコンなどに内蔵されている多くの電池はリチウムイオン二次電池(LIB)と呼ばれるものです。LIBを例にして電池のメカニズムを簡単に説明しますね。

 まず、初めに重要なことは『電流は電子の移動により生まれる』ということです。電流の向きは電子の移動方向とは逆向きです。LIBは上図に示す機構で作動します。例として正極にはコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極にはグラファイト(黒鉛)を使用しているものとします。正極は初めからリチウムイオンを持っているのですが、ここに電流を流してあげると負極に電子が注入されます。電子は負の電荷を持っていますから、このままでは負極は電気的に負に偏り続けますね。これを補うために、正極の中にあったリチウムイオンが電解質を通って負極に移動します。無理やり外から電気をかけて、リチウムイオンを移動させる、これが充電です。一方で、充電後のLIBを外部回路に接続してあげると、自発的にリチウムイオンが正極に移動します。その時、正極は電気的に正に偏りますから電子が外部回路を通って正極に流れこみます。この時に電流が発生するということですね!
 電池の研究では、好ましい起電力で多くの電流を流すことができる材料を開発することが目指されています。起電力は電池が作り出すことができる電圧(Voltage)のことです。そもそも電圧とはなんでしょうか?正極と負極ではそれぞれ別の酸化還元反応が起こります。この酸化還元反応を起こすために要するエネルギーのような因子に電位(Potential)というものがあります。2つの反応の電位の差、すなわち電位差が電圧に相当します。つまり、起電力は正極と負極の組み合わせで決まります。では流れる電流はどうやって決まるのでしょうか?これは移動するイオンの数で決まります。LIBの場合はリチウムイオンの数です。上図で例を挙げたLiCoO2はどのくらいのリチウムイオンが含まれていて、どのくらいの電気量を生み出すことができるでしょうか。これは理論的に計算することができます。

  1. 正極の式量を算出し、1 gの正極が何molあるかを求める。
  2. 正極の中に動くイオンが何molあるかを求める。
  3. イオンが1個動いた時に電子がいくつ動くかを判断する。
  4. 全てのイオンが動いた時に移動する電子のmolを求める。
  5. 電子のmolに96,485 [C mol–1]をかけて電気量を求める。
  6. C(クーロン)をmAhに変換する(mAh = C × (1000/3600))。
  7. これで1 gあたりの正極が100%のリチウムイオンを放出した時の容量 (理論容量)[mAh g–1] を算出できます。

実際にやってみましょう。LiCoO2の式量は97.87なので、1gのLiCoO2は約0.0102 [mol]です。1 [mol]のLiCoO2の中には1 [mol]のリチウムイオンが含まれるので、1gのLiCoO2に含まれるリチウムイオンも0.0102 [mol]です。リチウムイオンは1価の陽イオン(Li+)なので、動く電子(e)のmolもリチウムイオンと同じになります。あとは4〜7の操作を行うと、LiCoO2の理論容量が約273.37 mAh g–1であると求まります。ですが、実際に得られる容量(実容量)はこの値に到達しません。それは、すべてのリチウムイオンを充放電に使用できないからです。これを鑑みると実容量は『理論容量とイオン利用率の掛け合わせで決まる』ことがわかると思います。よって、理論容量を上げることだけでなく、充放電時のイオンの利用率を上げることも重要なテーマとなっています。

1. 正極の開発


 現在の多くの電池では負極の容量よりも正極の容量の方が小さいです。したがって電池全体の容量は正極の容量に大きく依存します。当研究室では、容量の向上と利用率の向上の両方について研究を進めています。それぞれの例をご紹介します。

【容量の向上】
 電池の充放電における主な過程は『充電過程では元々リチウムイオンがあった場所からリチウムイオンが脱離し、放電過程ではそこに戻ってくる』というものです。