このページでは私たちの研究室で行っている研究を紹介します。研究対象は主に糖質に作用する酵素(糖質関連酵素)であり、ここから大きく外れることはありませんが、その時の状況に応じて研究内容の細かい部分は変わる可能性があります。
また、下記以外の研究課題や学内外との共同研究も進行中ですので、詳しくは宮崎までお問い合わせください。
糖質は生物に重要な高分子化合物であり、エネルギー貯蔵物質(例:澱粉、スクロース)、生体の構成成分(例:セルロース、キチン)、浸透圧調節物質(例:トレハロース、グルコシルグリセロール)、情報伝達因子(例:糖タンパク質の糖鎖)など、その生理機能は多岐にわたります。これらの生合成や生分解は酵素によって行われており、その酵素の種類も数多く存在します。私たちは主に糖質関連酵素(Carbohydrate-Active Enzymes, CAZymes)に注目して以下の研究を行っています。
① 微生物のゲノム情報を活用した新規な糖質関連酵素の探索と構造・機能解明
② バクテリアの持つ糖質資化経路の解明
③ 糖質関連酵素の立体構造情報を基盤としたオリゴ糖合成ツールの開発
④ 糖タンパク質糖鎖の生合成に関わる酵素の構造と機能の解明
⑤ 昆虫の糖質関連酵素の構造と機能の解明
静大テレビジョン研究者紹介動画でも一部の研究内容を紹介しています→リンク
① 微生物のゲノム情報を活用した新規な糖質関連酵素の探索と構造・機能の解明
近年、次世代シーケンサーなどのゲノム解析技術の飛躍的な向上により、あらゆる生物の膨大な遺伝子情報が蓄積されています。特にバクテリアや真菌などの微生物のゲノムには機能が明らかになっていないタンパク質の遺伝子が数多く存在します。糖質関連酵素(CAZymes)も例外ではなく、糖質を合成あるいは分解すると予想される未知な酵素の遺伝子がまだまだたくさん眠っています。これらをターゲットとして、酵素の基質特異性を調べるとともに、立体構造解析を行うことで酵素がどのように基質をとらえ、反応を触媒するかの分子メカニズムを解明します。もし、この中から新規かつ有用な酵素を見出すことができれば、微生物の新しい糖質資化経路の解明(テーマ②)や新しい糖質の合成手法の開発(テーマ③)に繋がります。私たちの研究室では実際に新しい活性をもつ加水分解酵素を複数発見しており、その立体構造を明らかにしています。
関連論文
Miyazaki et al., J. Struct. Biol., 190, 21–30 (2015)
Miyazaki et al., Biochem. J., 469, 145–158 (2015)
Miyazaki and Park, FEBS Lett., 594, 2282–2293 (2020)
Nakamura et al., J. Biol. Chem., 297, 101366 (2021)
Miyazaki et al., Biochimie, 195, 90–99 (2022)
Alonso-Gil et al., Chem. Eur J., 28, e202200148 (2022)
Ikegaya et al., J. Biol. Chem., 298, 101827 (2022)
Ikegaya et al., FEBS J., 290, 4984–4998 (2023) プレスリリース
バクテリア(細菌)は分解者として自然界に存在するさまざまな有機物を分解してエネルギー源を得ています。生息環境に応じてさまざまな糖質を分解する酵素を有しており、我々ヒトが分解(消化)・吸収できないような糖質を分解します。特に腸内細菌などでは、植物由来の多糖(セルロースやペクチンなどのいわゆる食物繊維となる糖質)や宿主動物が産生するオリゴ糖や糖タンパク質の糖鎖を資化する経路が報告されています。バクテリアのゲノムにおいては、多糖やオリゴ糖を分解する酵素、糖質を捕捉する糖結合タンパク質、糖質を取り込むトランスポーターなどの遺伝子がオペロンを形成しており、特定の糖質に応じてそれらが発現し、糖質を資化するシステムを有しています。私たちの研究室では、腸内細菌や土壌・海洋などの環境に生息するバクテリアを対象に、どのような多糖を分解して生きているのかの分子メカニズムを明らかにすべく研究を行っています。これまでに、乳酸菌が産生する菌体外多糖(多分岐デキストラン)を対象とする土壌細菌の糖質資化経路や食物繊維の一つであるオオムギ由来β-グルカンを対象とする腸内細菌の糖質資化経路などを明らかにしました。
関連論文
Mizushima, Miyazaki et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 103, 6581–6592 (2019)
Miyazaki et al., J. Appl. Glycosci., 70, 15–24 (2023)
Singh et al., J. Biol. Chem., 299, 104806 (2023)
Nakamura et al., J. Biol. Chem., 299, 104885 (2023) プレスリリース
Nakamura, Kurata et al., FEBS J., 291, 3267–3282 (2024) プレスリリース
③ 糖質加水分解酵素の立体構造情報を基盤としたオリゴ糖合成ツールの開発
糖質加水分解酵素はその名の通り、分子量の大きい糖質を加水分解してオリゴ糖ないし単糖を生成する酵素ですが、中には糖転移反応を触媒する酵素が存在します。基質(ドナー)となるオリゴ糖から糖を切り出し、別の糖質(アクセプター)に転移させることで、別のオリゴ糖を生成することができます。この反応を利用してできたオリゴ糖の中には、食品に利用されている機能性オリゴ糖などがあります。また、酵素の立体構造情報から、加水分解反応や基質特異性に関与しているアミノ酸残基を特定し、それを別のアミノ酸残基に置換することで、糖転移反応を触媒しない糖質加水分解酵素に糖転移能を付与することができたり、基質特異性を変えることができたりする場合があります。私たちは研究テーマ①で見つけた酵素の立体構造情報を基に、有用なオリゴ糖や全く新しいオリゴ糖を合成できるツールの開発を目指しています。
関連論文
Miyazaki et al., FEBS J., 280, 4560–4571 (2013)
Miyazaki et al., J. Struct. Biol., 196, 479–486 (2016)
④ 糖タンパク質糖鎖の生合成や分解に関わる酵素の構造と機能の解明
私たち動物を含む真核生物が産生するタンパク質の半数以上は糖タンパク質です。タンパク質のアスパラギン残基に付加されるN結合型糖鎖やセリン/スレオニン残基などに付加されるO結合型糖鎖があります。糖タンパク質の糖鎖はタンパク質のフォールディング、安定性、輸送、機能発現などに関わっており、重要な生理的役割を担っています。これらの生合成・分解にはさまざまな糖転移酵素や糖質加水分解酵素が関与しており、多くは疾患にも関わっています。また、動物の中でも無脊椎動物(昆虫など)と脊椎動物の間で糖鎖の構造が大きく異なっており、生合成に関わる酵素の種類も異なっています。私たちは、ヒトや昆虫の糖鎖の生合成または分解に関わる酵素の機能と立体構造に興味をもって研究しています。
(図作成中)
関連論文
Miyazaki et al., Glycoconj. J., 28, 563–571 (2011)
Miyazaki et al., J. Biosci. Bioeng., 126, 15–22 (2018)
Miyazaki et al., J. Biosci. Bioeng., 127, 273–280 (2019)
Miyazaki et al., Insect Biochem. Mol. Biol., 115, 103254 (2019)
Nakamura et al., Insect Biochem. Mol. Biol., 124, 103427 (2020)
Oka, Mori et al., Glycobiology, 32, 1153–1163 (2022)
昆虫は地球上でもっとも多くの種の存在が知られている動物であり、進化の過程で独特な糖質関連酵素を獲得しています。特に私たちヒトにとっても身近な糖質であるマルトース(麦芽糖)やスクロース(ショ糖)の分解に関わる消化酵素は脊椎動物のものとは異なるルーツを持つタンパク質です。これまで、鱗翅目(チョウ目)昆虫のモデル生物であるカイコがもつ2種類のスクロース分解酵素の立体構造をX線結晶構造解析によって世界で初めて明らかにしました。そのうちの一つは、バクテリアからの水平伝播によるものと考えられています。また、私たちは共生するバクテリアからの水平伝播によって獲得したと考えられる別のカイコ由来糖質加水分解酵素(α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ)の機能解析なども行ってきました。
(図作成中)
関連論文
Miyazaki and Park, J. Biol. Chem., 295, 8784–8797 (2020)
Miyazaki et al., Insect Biochem. Mol. Biol., 124, 103427 (2020)
Ikegaya et al., Insect Mol. Biol., 30, 367–378 (2021)