【私の卒業研究】Sさん「博物館展示の意図と来館者の博物館体験に関する研究-浜松市楽器博物館の特別展を事例に-」

この卒業研究の内容を紹介してください。

 この卒業研究は、浜松市楽器博物館の特別展「尺八 SHAKUHACHI ~竹がつなぐ和のひびき~」を対象に、来館者が展示を通してどのような学びや体験を得ているのかを明らかにすることを目的としています。

具体的には、(1)博物館が意図したメッセージがどの程度来館者に伝わっているのか、(2)来館者の個人的コンテキスト(来館前の知識や経験、興味関心)が学習にどのような影響を与えるのか、(3)展示や順路の設計が、来館者に対してどの程度機能しているか、という3点について検証を行いました。

 研究では、浜松市楽器博物館の企画展を対象に予備調査を行い、その結果を踏まえて本調査を実施しました。本調査では、来館者の行動調査、インタビュー調査、アンケート調査の3つの手法を用いて調査を行いました。


この卒業研究に取り組もうと考えた動機はなんですか。

 情報学部の授業の一つである「先端情報学実習」で、浜松市楽器博物館と連携した活動に参加したことをきっかけに、卒業研究でも同館を取り上げることにしました。私は大学2年生のときから、浜松市楽器博物館が所蔵する楽器の演奏体験システムを制作するプロジェクトに参加していました。来館者が実際に体験するシステムを作る過程で、楽器博物館の展示と来館者の体験の両方に関心を持つようになりました。

特に、浜松市楽器博物館の展示がどのような意図で制作されているのか、来館者は博物館でどのような体験をしているのかということに関心を持ったため、このテーマで研究に取り組むことにしました。


卒業研究の中では「行動調査」と「インタビュー」、「アンケート調査」の3つの手法が取り上げられています。この多角的調査手法によってどういう成果がえられましたか。

3つの手法で調査を行ったことで、来館者についての理解の説得力が増したと思います。例えば今回の調査では、短時間しか観覧していなくても、インタビューをしてみると展示の内容を記憶し、理解している来館者がいることが分かりました。

また、アンケート調査によって、幅広い来館者層の調査を行うことができました。多角的な調査手法を取り入れることで、博物館の来館者の多様性をより具体的に捉えることができたと思います。


予備調査で得た知見が本調査に反映されていて、優れた研究になったと思います。その過程の苦労、こだわりなどがあったら教えて下さい。

 今回予備調査を行ったのは、浜松市楽器博物館の展示や来館者の特徴を把握したうえで研究を進めたいと考えたからです。私はこの卒業研究を浜松市楽器博物館の今後の展示づくりの参考になるような研究にしたいという思いがあったので、博物館の特徴を理解したうえで本調査を行えるように予備調査を行いました。

 来館者の傾向を知るために何度も博物館を訪れたのは少し大変でしたが、博物館の職員の方々と話をする中で、博物館や展示について理解を深めることができ、研究にも活かすことができたと思います。


主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか。

 調査結果の分析について悩んでいた際には、主査の村野正景先生に相談に乗っていただきました。先生の助言を受けながら分析の手法や内容を検討したことで、自分の関心のある点について深く理解することができました。また、副査の金明美先生からは、調査の計画から分析までの社会調査の一連の流れについて評価をいただきました。


情報社会学科で過ごした4年間に学んだことは何ですか?

情報社会学科で学んだ4年間で、幅広い知識に触れながら、自分の関心のある分野について学びを深めることができたと思います。私は「情報」というテーマについて学んでみたいという漠然とした思いで入学しました。実際に、プログラミングや情報社会、メディアなどさまざまな分野に触れる中で、自分の関心のあるテーマを見つけることができました。

また、浜松市楽器博物館との連携プロジェクトや浜松市の課題を解決するアイデアコンテストなどにも参加し、自分が興味を持ったことに積極的に取り組むことができたのもよい経験だったと感じています。

卒業研究では博物館や社会調査をテーマに研究をしましたが、卒業後はプログラミングへの関心や社会調査で身につけた力を活かしたいという思いから、システムエンジニアとして働くことにしました。4年間を通して、自分の視野を広げながら興味や関心を深めることができたと思います。


この卒業研究に取り組む過程で、あなたの中で変わったことはなんですか。

 卒業研究に取り組む過程で、調査を自分で設計して進めていくことの難しさを実感しました。授業で他の学生とグループで社会調査に取り組んだ経験はありましたが、卒業研究では調査の計画から実施、分析までを一人で進める必要がありました。来館者へのインタビュー調査やアンケート調査を行う中で、どのような質問をすればよいのか、どのように調査を進めるべきかを自分で考えながら試行錯誤しました。卒業研究という実践的な経験を通して、自分で考えながら物事を進めていく力が身についたと感じています。

指導教員講評
   指導教員:村野正景

Sさんの卒業研究は、情報学部で学んだ量的・質的調査の手法を博物館の現場で活かしたものです。信頼性の高いデータを調査によって得たことが第一の優れた点ですが、それ以上に、その分析結果を単なる学部生の卒業論文として学内にとどめるのではなく、実際の博物館へ還元し、館にとって、ひいては社会にとっても意義のある成果へと発展させたことが大変素晴らしいと思います。私は博物館館長やスタッフからも直接、Sさんの成果の貴重さや重要性を称える声をうかがっています。まさに社会に開かれた研究として高く評価できます。

私の研究室では、調査対象となる現場に自分の言葉で関心事を伝え、その場が抱える課題などと結びつけながら、関係者との信頼関係を築くことを大切にして研究を進めるよう指導してきました。Sさんの卒業研究は、まさにそれを体現したものです。このように、自らの関心を社会の現場と結びつけ、着実に探究を進めた姿勢は研究室でも、他の学生たちに大きな刺激を与えてくれました。

今後はシステムエンジニアとして社会で活躍する予定ですが、現場の声に耳を傾け、課題を丁寧に理解しながら調査と分析を重ねたこの経験は、プログラムやデータと向き合う仕事の中でもきっと生かされていくと思います。

取材・編集:情報社会学科OSスタッフ(2026-03-12)