(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)
卒論の内容を紹介してください。
eラーニングに関する研究です。eラーニングは情報通信技術を活用する新しい教育・研修一般の呼称です。教育・研修と言えば、教室のような場所に人を集めて講師と対面して一斉授業をするのが主流ですが、情報通信技術を使うことで、場所や時間を越えて授業が受けられます。eラーニングには、教育・研修を提供する側、受ける側双方にメリットがあります。
eラーニング提供側のメリットとしては、場所や時間の面から考えると、低コストで行うことが可能であること、流通しているコンテンツやシステムが利用できるので、教育・研修の質の保証ができることが挙げられます。eラーニングを受ける側(学習者)のメリットとしては、時間や場所を拘束されないこと、自分の理解度に合わせて、学習を進められることが挙げられます。

eラーニングでは、学習者が自分で学習を進めることが基本となります。これはメリットのひとつでもありますが、その一方で、継続して学習に取り組むことが困難で、学習者が授業から脱落(ドロップアウト)しやすいという問題が指摘されています。
授業を行う側からすると、学習から脱落しそうになっている学習者に対して何らかの支援を行うことが必要です。対面式の授業であれば、誰が授業から脱落しそうになっているかを、表情や受講態度などから講師が感じることができますが、eラーニングではそうはいきません。eラーニングにおいて、どうやって学習者の脱落を予測するか、ということが私の卒業論文の問題意識です。
研究では、まず、指導教員の堀田先生の担当する授業に、実際にeラーニングを取り入れました。講師は最小限の講義をし、後の学習はWeb上の教材で行ってもらいます。
授業では、残念ながら脱落者が出てしまったわけですが、授業で得られた学習者のデータを元にして、脱落してしまった学習者と最後まで学習を継続できた学習者の間にどのような違いがあるかを分析しました。もしも違いが見つかれば、その違いが、脱落者を予測するための指標として利用できるわけです。
学習者を比較するためのデータとして、
1)授業を受ける前の学習者の初期知識、
2)学習者の授業理解度、
3)教材へのアクセス頻度
の3つを決めました。授業を受ける前の学習者の初期知識は、授業開始前にプレテストを行うことで測定しました。学習者の授業理解度は、毎回の授業ごとに理解度のアンケートを取りました。教材へのアクセス頻度は、Webサーバ上でアクセスログを収集しました。
結果として、脱落した学習者と最後まで学習を継続した学習者の間で、違いがあったのは教材へのアクセス頻度のみでした。特に授業開始から1ヶ月後のアクセス頻度に、統計的な有意差が見られました。
eラーニングの脱落者を予測するためには、教材へのアクセス頻度に注目することが有効なのではないか、というのが卒業論文の結論です。
「eラーニング」に取り組んだ理由を教えてください。
研究室に所属した3年生のとき、一番はじめに輪講した本がeラーニングに関するものでした。それがきっかけです。本では企業内教育におけるeラーニングが取り上げられていましたが、学校以外の場所で行われる教育や、効率や効果を追求しようという点に興味を覚えたのだと思います。
eラーニングを卒論にしようと漠然と考えてから、選択肢を広げようと思い、3年生の夏休みに入る前くらいに、Webサーバ上で動くプログラムを学習し始めました。
これまでの関連する研究と比較して、あなたのこの論文の長所はなんだと思いますか? また、反省点は何ですか?
そもそも脱落があるということ自体が非常にネガティブなことなので、eラーニングに限らず、学習者の脱落に関する研究はあまり多く行われていません。テーマに新規性があると考えています。
反省点としては、初めから論文の全体が見通せなかったことです。授業は私が4年の前期に行われましたが、とにかく教材を作ったりするので精一杯で、それほど計画的だったわけではありません。後で様々な分析が可能なように、色んなデータを収集できるようにしましたが、それでも後々の分析の時に方針が立てられずに困りました。本来的には、分析の方針をしっかり決めておいてからデータを収集するのが基本なので、これはあまり大きな声では言えません。
eラーニングの受講者には、どういう意見・要望がありましたか?
多くの人は、自分のペースで学習が進められることを好意的に捉えていました。また、教材の操作に関する戸惑いや、「教材の内容が足りない」など、教材の記述のレベルに対する不満がいくつか見られました。授業の構成が特殊だったので、説明不足がひとつの要因だと考えています。

授業に出てこなくなり脱落してしまう受講者の人たちは、あまり意見の表明をしません。私の研究でも少し触れていますが、そうした人たちをどうやってサポートするかは重要だと思います。
今後、効果的にeラーニングを実施するためにはどういうことが必要だと考えましたか?
教える行為や教材そのものの質を高めることは当然として、学習者の動機づけと、学習者への支援が必要だと思います。いかに学習者が学ぶように仕向けられるか、いかに学習者に働きかけるか、ということです。学習者個人に働きかける場合もあれば、学習者の集団に対して働きかける場合もあると考えられますが、このような学習者への働きかけは、eラーニングでは、やはり情報通信技術を通じて行われると思います。
「eラーニング」教材を作るに当たって苦心したことは何ですか?
授業が毎週あるので、締め切りに間に合わせるのが一番大変でした。これは冗談ではなく、本当に苦労しました。
卒論を書くに当たって、後輩になにか助言はありますか?
卒論には、何よりも自分が興味を持てるテーマを選択する必要があると思います。1年以上の時間を費やすことになるので、興味が無いテーマを安易に選択してしまうと、卒論を書くのが辛くなってしまうと思います。
また、客観性についても気を配る必要があると思います。科学的な分析手法や先行研究の調査などを行うことは重要だと思います。自分の考えだけで研究を進めるのではなく、指導の先生や先輩・同級生などとよく議論して欲しいと思います。
主査・副査の先生の評価はどうでしたか?
「興味深い」との評価をいただきました。eラーニングの、特に脱落に関する研究は新規性があるので、その部分を評価していただいたと考えています。
大学院に進学後、この論文でまとめたことをどう生かしたいですか?
まだ具体的な研究計画にはなっていませんが、eラーニングの脱落者をどのようにして予測するのか、また脱落しそうな学習者に対してどのような働きかけをするのか、ということについて、引き続き興味があります。最近では、数理的なモデルを用いて脱落の危険性をシステムが推定できるようなしくみを検討しているところです。

情報社会学科で学んだこと・得たことはなんだと思いますか?
私の研究はeラーニングに関することですが、この分野は認知心理学の領域や、企業経営の情報化などと関係が深いので、専門の領域だけではなく、そのひとつ隣の領域のことが学べたことがとても訳に立ちました。
指導教員講評
指導教員:堀田龍也
M・S君の卒論では、最近ニーズが高まっているeラーニング分野のシステム開発を行いましたが、机上の空論ではなく、現実の場に適用したことに魅力があります。大学における授業の課題を分析し、これを回避するためのシステムを設計・開発し、実際の運用の中からこれを評価した点が高く評価できます。M・S君は大学院に進学し、eラーニングの適用や課題について具体的に研究を進めていくでしょう。
取材・編集:M(2003/03/14)