SEM-EDSのWDについて

FE-SEMに備えられているEDSで化学組成分析や元素マッピングをする際、WDにより特性X線の検出効率が変化します。
また、同じWDであっても電子ビームのシフト方向などにより特性X線の検出効率が変化します。

ここでは、それについて説明したのちに適切なWDについて記述します。

 

各WDの時の走査範囲と検出器の位置関係

図1は検出器と電子線の走査範囲の位置関係を示したものです。
ちなみに、本機器はおおよそWD11の時に検出器の正面付近に位置します。

では正面位置よりWDが小さい時(WD10mm)、正面の時(WD11mm)WDが大きい時(WD12mm)で比較します。


図1 WDが変化したときの電子線の走査範囲に対する検出器の位置関係の模式図

 

各WDにおける分析点の位置と特性X線の輝度

 


図2 WDが変化したときの分析点と輝度の関係の模式図

正面位置よりもWDが小さい場合(図2のWD10以下の場合)

四角の範囲を元素マッピングした場合を考えます。

紫色の点
・ 検出器の正面位置から遠い(検出効率は悪い)
・ 検出器からの距離も遠い(検出効率が悪い)

水色の点
・ 検出器の正面位置に近い(検出効率は良い)
・ 検出器からの距離が近い(検出効率が良い)

以上より、水色の点の特性X線の検出効率は紫色の点よりも良い
(WDが小さい時、検出器に近い側と遠い側で輝度に差ができやすい)
この状態で元素マッピングをした場合、輝度にムラのあるマッピング像になる

 

正面位置よりもWDが大きい場合(図2のWD12以下の場合)

紫色の点
・ 検出器の正面位置に近い(検出効率は良い)
・ 検出器からの距離は遠い(検出効率が悪い)

水色の点
・ 検出器の正面位置から遠い(検出効率は悪い)
・ 検出器からの距離が近い(検出効率が良い)

※ 紫色と水色の天の輝度の比較は下記参照

 

正面位置付近のWDの場合(図2のWD11付近の場合)

紫色の点
・ 検出器の正面位置にやや遠い
・ 検出器からの距離は遠い

緑色の点
・ 検出器の正面位置
・ 検出器からの距離は紫色と水色の間

水色の点
・ 検出器の正面位置にやや遠い
・ 検出器からの距離が近い

※ 紫色、緑色、水色の輝度の比較は下記参照

 

 

x軸とy軸に対する特性X線の輝度の測定

では実際に各WDの時に分析点に対して輝度がどのように変化するのかを測定する

測定条件
加速電圧        15 kV
照射電流        1 nA
分析試料        シリコン
用いる特性X線       SiKa
分析手法        線分析(x軸方向とy軸方向)
分析点数        500点
倍率(線分析する範囲) 100倍(xは960 um、y は1280 um)、60倍(xは1600 um、y は2120 um)

 

100倍の視野の時のラインスキャンの強度分布(WD10~13mm)

図3に100倍の視野の時のWD10~13mmのラインスキャンを示す。

y軸方向について
・ WD11(検出器正面付近)時、y軸方向の輝度の差が最も小さい
・ WD10(検出器正面よりもWDが小さい)時は、y軸方向の輝度の差が大きくなる
・ WDが小さいほど輝度が高い傾向にある
(中心付近で比較すると、検出器正面に近いWD11mmが最も輝度が高い)
・ 検出器正面よりもWDが小さい時と大きい時を比較したとき、WDが大きい時のほうが輝度の差が小さい
・ 検出器正面よりもWDが大きい時(WD12, 13mm)は、検出器から遠い側(検出器正面に近い側)の方が輝度が高い

x軸方向について
・ y軸と比較して中心から遠い時でも輝度の変化が少ない
・ WDが小さいほど輝度が高い傾向にあるが、検出器正面に近いWD11mmが最も輝度が高い

図3 100倍の視野の時のy軸方向(左)、x軸方向のラインスキャン(右)
WD10~13mmの時に得られたの結果で、それぞれ視野の中心を通る線を分析した。また視野の中心を0umとしている。それぞれの分析点の前後20点を用いて平滑化処理をした。

 

検出器正面(WD11mm)付近のラインスキャンの強度分布(60倍の視野で)

図4, 5にWD11mm付近の時の60倍の視野のラインスキャンを示す。

y軸方向について
・ WD11.2-11.4の時、y軸方向の輝度の差が最も小さい
・ 中心付近で比較すると、WDが小さいほど輝度が高い

x軸方向について
・ WDが変化してもx軸方向の輝度の変化は少ない
・ WD11.3付近(y軸方向の輝度の差が小さい)の時、60倍の視野の場合はy軸よりもx軸の輝度の変化の方が大きい


図4 WD11mm付近、60倍の視野の時のy軸方向(左)、x軸方向のラインスキャン(右)
分析方法や結果の処理などは図3と同じで、縦軸(cps)のスケールも図3に合わせた。点線は100倍の視野の時の範囲を示す。


図5 図4の縦軸(cps)を拡大した図

 

 

EDXを行う場合のWDの選び方

EDXを行う時のWDについて

WD11.0mmで行うのが無難と思われる
・ 中心(0um付近)の輝度の変化は少なく、WD11付近の他のWDと比較して大きな差はない
・ 中心の輝度の変化が少ない中では、cpsが高い方
・ キリの良い数字である

 

※ 定量分析にこだわるのであれば、WD10.8-WD10.7mmぐらいだと、視野中心の点のWDの変化に対するcps変化が少なく、かつcpsも高くなるかも

※ 元素マッピングにこだわるなら、WD11.2-11.4mmとかぐらいだと、WD11.0の時よりも若干輝度のムラが少ないかも

※ EBSDを併用する場合はEBSDのWD優先。そのうえで定量性を求める場合は、EBSDを得る条件に合わせて標準試料測定が必要になる。
・ この場合、定量性には限度があるため、そこまでこだわる必要はないと思われる
・ EBSDの条件に合わせた場合、元素マッピングの輝度ムラは避けられない