オンファス輝石の薄膜試料を用いて透過EBSDを行ったので、それについて記します
ケイ酸塩鉱物について透過EBSDを行う時の参考にしてください
注意
今回は14mmΦ試料台がなかったため、10mmΦの試料台に強引に傾斜試料台を取り付け、ドローアウトによる試料交換で行いました。
これはメーカーの方立ち合いのもと慎重に行っていますので、今回のような試料の設置についてはマネしないでください。
14mmΦ試料台を入手するまでは、透過EBSDは行わないでください。
観察試料
観察試料(薄膜) オンファス輝石(約300℃でできた、低温高圧の天然試料)
化学組成 (Na0.55, Ca0.45)(Al0.35, Fe3+0.2, Mg0.35, Fe2+0.1)Si O3
使用した結晶相 下記の5つの相。詳しくはこちらを参照
・ C2/cオンファス輝石 無秩序相
・ P2/nオンファス輝石 通常現れる秩序相
・ C2オンファス輝石 通常は出現しない準安定な秩序相1
・ P2/cオンファス輝石 通常は出現しない準安定な秩序相2
・ P2オンファス輝石 上記3つの秩序化が複数混ざった相
※ この5つの相のEBSDパターンは、わずかな差しかない
※ ちなみに、既存のオンファス輝石(空間群P2)は、文献値の結晶構造の情報が再現できていないと思われる
分析条件
加速電圧 30kV
照射電流 10nA
step(マッピング) 5nm/step
pixel(マッピング, 横) 114pixel
デュエルタイム 191ms
薄膜試料と分析機器の位置関係
下図は横からの光学カメラから見た時の傾斜試料台、EDX, EBSD検出器の位置関係です
傾斜試料台は10mmΦの試料台に取り付けられています
観察した薄膜
もともとはオンファス輝石単相だったが秩序化に伴って様々な秩序相が出現した試料と考えられる
・ 上記の5つの相がかかわる複雑な結晶組織を持つと予想される
・ 結晶方位はどこもほとんど同じである
透過EBSDマッピング
上図の薄膜の中央上よりの約500nmぐらいの領域で透過EBSDマッピングを行った
この領域はパターンチェックの時にはパターンが明瞭で正しい方位を示すことがほとんどであったが、透過EBSDマッピングではゼロソリューション(相同定できないピクセル数)が70%を超えていた
1 フェーズID
ついていない点がほとんどであるが、緑(C2/c)が他よりも若干多め
(TEM観察では、この分析領域は濃紫(P2/n)が多いという結果だった)
2 IPF_Z(結晶方位)
結晶方位はばらばらに見えますがこれは、結晶相がバラバラなせい(本当は全領域同じ方位の結晶のはず)
EBSDマッピング像の一番上を見ると結晶方位が揃っているように感じる
3 バンドコントラスト
一番上を見るとバンドコントラストが明るいのに対し、他は暗めなので
一番上は結晶相として明瞭なパターンが得られていたのに対し、下の方はその上部の分析によりアモルファス化して明瞭なピークが得られなかったのではと考えられる
4 曲点図
図 各相の極点図
各図の”〇”で囲った場所はTEMや偏光顕微鏡から予想される正しい方位を示す。(P2/nのみ軸を取り換えているため、{100}の方位が異なる)
P2とP2/cは”〇”で囲った場所に方位が集中していないため、正しく同定できていないと思われる
C2とP2/nは”〇”で囲った場所に方位が集中しているが、他にも集中している方位がある(その方位に誤って同定しやすかった?)
C2/cは”〇”で囲った場所に方位が集中していないため、正しく同定できてい場合が多いと思われる
5 元素マッピング(Ca)
図 Caの元素マッピング
横軸(走査方向)に平行な線がみられる。Caの濃淡は見られるが、もともとの鉱物組織由来のものかどうか判断できなかった
6 EBSDパターンの時間変化
上図 透過EBSDのオンファス輝石のEBSP
下図 左図に10秒間電子線を当てた時のEBSP
電子線を当て続けるとEBSPが不明瞭になる。
鉱物相にもよると思われるが、ケイ酸塩のマッピングには注意が必要である
今回の分析のまとめ
・ 一番上の領域はある程度しっかりとマッピングができたかもしれないが、大部分の領域はアモルファス化(?)により回折が不明瞭になり、うまくマッピングができなかった。また、そのためにゼロソリューションが多くなった。
・ 一番上の領域では、無秩序相が多いように感じた。
・ EBSPの明瞭な鉱物相や電子線に強い鉱物相であれば透過EBSDは有用であるが、電子線に弱い鉱物相の場合は分析条件や試料の設置条件などに工夫が必要だと思われる