研究概要
DNA・RNAのかたちに秘められた情報を読み解き、細胞内での機能を理解する
大吉研究室では、DNAやRNAの「配列」だけでなく、「立体構造」に注目し、細胞の中でそれらがどのように機能を制御しているのかを研究しています。グアニン塩基が豊富なDNAやRNAは、G-quadruplex(G4)と呼ばれる特徴的な高次構造を形成することがあり、これらの構造は特定のタンパク質に認識されることで、遺伝子発現や染色体の状態に影響を与えます。
本研究室の研究テーマは、大きく分けて次の4つです。
まず、(1)G4構造に結合するタンパク質の探索を行い、どのようなタンパク質がDNAやRNAの特殊な構造を見分けて認識しているのかを明らかにします。次に、(2)G4がクロマチン制御に果たす役割に着目し、特にテロメアと呼ばれる染色体末端領域において、DNA・RNA・タンパク質の相互作用が、遺伝子のオン・オフやゲノムの安定性にどのように関わっているのかを調べます。さらに、(3)RGGドメインによるG4認識のしくみを分子レベルで解析し、構造がはっきり定まらないタンパク質領域が、なぜ高い選択性をもって結合できるのかを解明します。これらの知見をもとに、(4)G4を標的とする機能性ペプチド分子の設計にも取り組み、生細胞内でG4の機能を調べるための分子ツールの開発を進めています。
大吉研究室では、タンパク質の解析や細胞実験、分子設計を組み合わせることで、核酸の立体構造がどのように細胞機能を制御しているのかを総合的に理解することを目指しています。
(1)G4構造に結合するタンパク質の探索
G4は、グアニン(G)に富んだ配列から形成される、DNAおよびRNAの特殊な立体構造です。このような構造形成は、細胞内での遺伝子やRNAのふるまいに大きな影響を与えることが知られています。G4構造は、ゲノムDNAだけでなく、mRNAや非コードRNAにも存在しており、遺伝子発現制御に幅広く関与していると考えられています。これまでの研究から、G4 DNAは転写制御、テロメア維持、エピジェネティック制御、DNA複製などに関与することが示されています。一方、G4 RNAも、転写、RNAプロセシング、細胞内局在、翻訳制御など、さまざまなRNA関連過程に関与していることが明らかになってきました。重要な点として、G4構造は常に固定された構造ではありません。生細胞内では、特定の結合タンパク質との相互作用によって、形成と解消を繰り返す「動的な構造」として存在しています。この動的な制御こそが、G4の生物学的機能にとって重要であると考えられています。

G4細胞内でどのように機能しているのかを理解するためには、G4構造を特異的に認識するタンパク質の同定と、その分子特性の解明が重要です。大吉研究室ではこれまでに、TLS/FUS、EWS、Fibrillarin(FBL)などのG4結合タンパク質を同定してきました。TLS/FUSやEWSは、Arg–Gly–Gly(RGG)ドメインをもつG4結合タンパク質であり、特にRGGドメイン中のチロシン、フェニルアラニン、アルギニン残基がG4認識に重要であることを明らかにしています。
これらの研究を通じて大吉研究室では、DNAやRNAが配列だけでなく立体構造によってどのように認識され、機能を発揮しているのかを明らかにしてきました。今後は、G4のさらなる機能や疾患との関連を解明することを目標に、より多くのG4結合タンパク質の探索と機能解析を進めていきます。

Identification of Ewing’s sarcoma protein as a G-quadruplex DNA- and RNA-binding protein. Takahama, K., Kino, K., Arai, S., Kurokawa, R., Oyoshi, T. FEBS. J. 2011, 278, 988-998.
Loop lengths of G-quadruplex structures affect the G-quadruplex DNA binding selectivity of the RGG motif in Ewing’s sarcoma. Takahama, K., Sugimoto, C., Arai, S., Kurokawa, R., Oyoshi, T. Biochemistry 2011, 50, 5369-5378.
G-quadruplex-proximity protein labeling based on peroxidase activity. Masuzawa, T., Sato, S., Niwa, T., Taguchi, H., Nakamura, H., Oyoshi, T. Chem. Commun. 2020, 56, 11641-11644.
(2)G-quadruplexがクロマチン制御に果たす役割
G4構造は、DNAやRNAがとる特殊な立体構造であるだけでなく、タンパク質やRNAを組織化する分子プラットフォームとして機能し、クロマチン構造やゲノムの安定性を制御します。G4は特定の結合タンパク質やクロマチン修飾因子をリクルートすることで、遺伝子発現制御に能動的に関与しています。
私たちの研究では、TLS/FUSおよびEWSが、テロメアDNAおよびテロメア反復配列を含むRNA(TERRA)に形成されるG4構造を認識することを明らかにしてきました。TLS/FUSは、テロメアDNAとTERRAの両方に同時に結合することで安定な三者複合体を形成し、核酸とクロマチン制御因子を結びつける分子ハブとして機能します。TLS/FUSは、ヒストンメチルトランスフェラーゼである Suv4-20h2 とTERRAの双方と相互作用し、ヒストンH4リジン20三重メチル化(H4K20me3)やヒストンH3リジン9三重メチル化(H3K9me3)といった、ヘテロクロマチン形成に特徴的なヒストン修飾を促進します。これらの修飾は、テロメアのクロマチン構造維持やテロメア長制御に不可欠です。
一方で EWSは、TLS/FUSとは異なり、テロメアDNAとTERRAに競合的に結合します。その結果、細胞内のTERRA量によってEWSのテロメアDNAへの結合が制御され、EWSのテロメアにおける機能が調整されます。すなわち、TERRA量の変化がEWSの結合相手を切り替え、テロメアクロマチン状態に影響を与えます。EWSは、CBP/p300 などのヒストンアセチルトランスフェラーゼと相互作用し、転写活性型クロマチンの指標であるヒストンH3リジン27アセチル化(H3K27Ac)をテロメアで促進します。このEWS依存的なクロマチン制御は、TERRA量に応じたG4結合の競合を通じて精密に調節されています。
これらの研究から、G4構造はDNA・RNA・タンパク質の相互作用を統合する能動的な制御要素として機能し、テロメアにおけるクロマチン構造と遺伝子発現を動的に制御していることが明らかになりました。大吉研究室では、G4を介したエピジェネティック制御機構を解明することで、核酸構造がゲノム安定性および転写制御に寄与する基本原理の理解を目指しています。


Regulation of Telomere Length by G-Quadruplex Telomere DNA- and TERRA-Binding Protein TLS/FUS. Takahama, K., Takada, A., Tada, S., Shimizu, M., Sayama, K., Kurokawa, R., Oyoshi, T. Chem. Biol. 2013, 20, 341-350.
Transcriptional regulation of telomeric repeat-containing RNA by the G-quadruplex-binding Ewing sarcoma protein. Ulum, L. L., Matsudaira, W., Yamanashi, M., Shibata, N., Saha, S., Ishihara, A., Oyoshi, T. Sci. Rep. 2026, 16, 715.
(3)RGGドメインによるG-quadruplex認識のしくみ
Arg–Gly–Gly(RGG)ドメインは、DNAやRNAに結合するタンパク質に広く保存されている配列モチーフであり、転写制御、RNAプロセシング、クロマチン制御など、さまざまな核酸関連過程に関与しています。しかし、RGGドメインをもつこと自体が、必ずしもG4結合能を意味するわけではありません。私たちの研究から、TLS/FUSおよびEWSのC末端に存在するRGGドメインが、G4 DNAおよびG4 RNAに特異的に結合することが明らかになりました。この結果は、G4認識には単なるArg–Gly–Gly配列の存在だけでなく、RGGドメインに備わった追加の構造的特徴が必要であることを示しています。私たちはRGGドメインによるG4認識に重要な、いくつかの要素を明らかにしました。
第一に、連続したRGG配列は、複数のアルギニン残基を並べた多価的な配置を形成し、G4構造のリン酸骨格などと相互作用します。第二に、RGG配列の近傍に存在するフェニルアラニンやチロシンといった芳香族アミノ酸が重要であり、これらはG4とのπ–π相互作用を通じて、G4結合を安定化すると考えられます。第三に重要な点として、RGGドメインはβターン様構造を形成することがあり、これによってペプチド鎖に明確な折れ曲がりが生じます。このβターンは、G4とうまく適合するための構造として働くと捉えることができます。これらの特徴が組み合わさることで、特定のRGGドメインはG4構造を高い選択性で認識できるようになります。本研究は、天然変性タンパク質に含まれるRGGドメインが、どのようにして高次核酸構造を選択的に認識できるのかを分子レベルで示すものであり、柔軟なタンパク質領域による高度に特異的な核酸認識の分子基盤を明らかにしています。

G-quadruplex Binding Ability of TLS/FUS Depends on the β-Spiral Structure of the RGG Domain. Yagi, R., Miyazaki, T., Oyoshi, T. Nucleic Acids Res. 2018, 46, 5894-5901.
Roles of the RGG domain and RNA recognition motif of Nucleolin in G‑quadruplex stabilization. Masuzawa, T. and Oyoshi, T. ACS Omega 2020, 5, 5202-5208.
(4)G-quadruplexを標的とする機能性ペプチド分子の設計
RGGドメインによるG4認識機構の解析結果をもとに、私たちは TLS/FUSのRGG領域を基盤とした人工ペプチドを設計し、G4構造を選択的に認識する分子の開発に取り組んできました。チロシンまたはフェニルアラニン残基を含むポリペプチドを合理的に設計することで、G4 DNAあるいはG4 RNAにそれぞれ優先的に結合するポリペプチドの創製に成功しました。これらの構造選択的ペプチドを分子プローブとして用いることで、テロメアにおけるDNA型G4とRNA型G4の役割の違いを解析し、G4 DNAとG4 RNAが異なるヒストン修飾経路を介してクロマチン制御に関与していることを明らかにしました。さらに、G4 DNAに結合するペプチド分子を用いることで、プロモーター領域にG4構造を形成する bcl-2 遺伝子の転写を抑制できることも報告しています。この結果は、G4構造を標的とする分子が、特定の遺伝子発現を制御し得ることを示す重要な例です。
これらのペプチドは、天然のG4結合ドメインをもとに設計されているため、生細胞内においてもG4構造を選択的に標的化できるという利点を持っています。そのため、G4 DNAおよびG4 RNAの生物学的機能を解析するための汎用的な分子ツールとしての応用が期待されます。本ペプチド分子を基盤としたアプローチは、将来的なG4標的分子プローブの開発につながるものであり、DNAおよびRNA G4の機能を生細胞内で選択的に解析する新たな可能性を切り拓くものです。


Specific binding of modified RGG domain in TLS/FUS to G-quadruplex RNA: Tyrosines in RGG domain recognize 2’-OH of the riboses of loops in G-quadruplex. Takahama, K., Oyoshi, T. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 18016-18019.
G-quadruplex DNA- and RNA-specific-binding proteins engineered from the RGG domain of TLS/FUS. Takahama, K., Miyawaki, A., Shitara, T., Mitsuya, K., Morikawa, M., Hagihara, M., Kino, K., Yamamoto, A., Oyoshi, T. ACS Chem. Biol. 2015, 10, 2564-2569.
DNA G‐Quadruplex-Binding Protein Developed Using the RGG Domain of Translocated in Liposarcoma/Fused in Sarcoma Inhibits Transcription of bcl‐2. Ulum, L. L., Karikome, Y., Yagi, R., Kawashima, T., Ishihara, A., Oyoshi, T. ACS Omega 2023, 8, 10459-10465.
Identification of Guanine-Quadruplex-Binding Peptides from the RGG3 Domain of TLS/FUS. Takeo, S., Tabata, M., Okita, H., Shibata, N., Sato, K., Mase, N., Oyoshi, T., Narumi, T. Chem. Pharm. Bull. 2025, 73, 938-943.