大学と企業の研究

 企業の研究職を25年間、その後大学の教員を1年間やった者として、研究職における企業と大学の違いを感じ始めている。次の図はそのイメージだ。

   企業の研究者は一つの研究開発チームに所属する。チームの目標は、その企業がこれから生み出す新しい製品やサービスが社会に広まるための、元になる技術を開発することだ。各研究員はそれぞれの研究課題を発掘して、自分でまたは複数で課題を解決する最善の手段を見つけることが期待される。それぞれの開発した技術は時間がかけられていて、多少の条件の変更にも効果が変わらないようなロバストなものとなっている。つまり、それぞれの研究成果はいくらかの汎用性を持つ十分太くて深い技術だ。キーとなる技術が重ね合わさり、目標の開発を達成する。大きな宝が見つかるような太い井戸になっている。
 一方、大学で研究を行う教員は、講義の担当や学科の仕事などかなりの数の独立した仕事も行うため、課題の発掘からその問題を深く考え自分の手を動かして答えを求めるところまですべてを自分で行うことができない。卒研生や大学院の学生の研究教育のためには、各学生にユニークなテーマを与えてどのように研究をするかをアドバイスしなければならない。結果として、研究課題の発掘とアドバイスだけを教員が担当して、その問題を深く考え手を動かして答えを求めることを学生が担当するしかなさそうだ。教員は自分の手で研究を進めることが難しい分、複数のテーマを複数の学生といっしょに、それらを同時に挑戦する機会を得ることができる。従って、企業の研究者と比べれば、大学の教員は短いがもっと太い井戸を掘る。深い部分は各学生に任せる。
 もう一つ大きな違いは、大学の教員は研究テーマを自分で決めることができる点だ。資金がたくさん必要になる研究テーマを選んだ場合は、資金を取ってくるための活動にたくさんのエネルギーを必要とするだろう。それができる教員はすばらしい。自分にはまだそこまでの才覚がないので、資金がそれほどなくても済むテーマを選べばよい。できれば、将来性の大きな分野をテーマに選びたい。学生にとっては大学での研究経験は将来のキャリアに大きな利点になり得る。将来性が膨大でない場合は、研究経験が将来間接的に生きてくるような研究教育が大事になる。いずれにせよ、一番大事なのは自分がワクワクすることだ。その点については幸い、企業と大学で潜在的な違いはない。「同じアホなら踊らにゃ損」と同じで「同じやるなら楽しまなゃ損」でいきましょう。
 自分の来た道を振り返ると、先生に研究のやり方を教わって一つの研究成果を出す経験をし、その経験を企業でチームとしての研究開発に生かしてそこに貢献をし、先生から教わったことを次の学生に伝える経験を始めている。Happyなことです。


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