井川の自然:親子微生物探求ワークショップ
静岡市井川地区は、南アルプスユネスコエコパークに位置し、豊かな自然環境と在来作物、伝統芸能など多様な文化資源を有する地域です。しかし、人口減少と高齢化が進み、アクセスの課題も相まって地域の活力維持が難しくなっています。2025年7月に開館した南アルプスユネスコエコパークミュージアムは、井川の自然・文化・歴史を伝える拠点として期待されています。開館から間もないため、ミュージアムの魅力が地域内外へ広がっていく途上にあり、来館のきっかけづくりが求められており、地元住民からは「もっと人が訪れるようにしてほしい」という声が寄せられていました。
こうした背景を踏まえ、研究室では親子向けの体験型科学ワークショップを企画し、ミュージアムへの新たな来館動機を創出することを目指しました。テーマは井川の「微生物」。地域の植物や落ち葉を採集し、後日静岡大学で顕微鏡観察を行う二回構成のプログラムです。科学的な学びと地域文化の理解を結びつけ、親子が楽しみながら井川の魅力を再発見できるよう設計しました。
募集は静岡市内の小中学校、静大附属校、科学館る・く・る、地球環境史ミュージアム、浅間神社オクシズコーナー、農学部のホームページ、インスタグラムなどから行った結果、8家族24名(子ども13名)が参加しました。さらに市内の理科教員3名と静大職員1名がボランティアとして協力してくださいました。
◆第一回(7月20日) 南アルプスユネスコエコパークミュージアムでの地域文化学習と採集体験
第一回はミュージアムで実施しました。井川在住の望月仁美さんを講師に迎え、井川の在来作物や方言についてお話しいただきました。望月さんは郷土服を着て、アワ・キビ・ヒエなどの雑穀、二段ネギや地這いきゅうりといった在来野菜を紹介し、米が取れない井川で雑穀栽培が根付いた歴史を語ってくださいました。また、井川の方言を使った「てしゃまんく」の紙芝居を実演されました。
続いて木村が微生物の基礎講義を行い、採集のポイントを説明した後、ミュージアム展示を案内付きで見学しました。昼食は事前予約制とし、ミュージアムのレストランが在来野菜を使った特別ランチプレートを提供してくださいました。
午後はミュージアム周辺の神社や寺を散策しながら植物や落ち葉を採集しました。熱中症対策としてこまめな水分補給を促しつつ、各家族が思い思いのサンプルを採取しました。採取後はミュージアムに戻り、酵母が育つ培地にサンプルを漬け込み、静岡大学へ搬送して第一回を終了しました。



◆第二回(8月9日)
静岡大学での顕微鏡観察と発酵の体験学習
第一回で採集したサンプルは静岡大学に持ち帰り、30℃で2週間静置培養しました。培養液をプレートにまいて酵母のコロニーを形成させましたが、サンプルによって生育状況は大きく異なりました。全参加者のサンプルからコロニーが得られるよう、培養条件や量を調整しながら丁寧に作業を進めました。
第二回は8月9日、静岡大学農学総合棟の学生実験室で実施しました。まず木村が第一回の振り返りと微生物の講義を行い、味噌・クラフトビール・パン種など発酵食品に含まれる微生物を顕微鏡カメラでライブ投影しながら紹介しました。普段の食卓にある食品が微生物の働きによって生まれていることを、視覚的に理解できる時間となりました。
続いて、親子が自分たちの採集したサンプルから得られたコロニーの微生物を顕微鏡で観察しました。今回の培地は酵母が優先的に育つよう調整しているため、主に酵母が観察されます。目に見えない微生物の存在を実感した子どもたちは、真剣に顕微鏡をのぞき込み、アシスタントとともに操作方法を学びながら観察を進めました。
研究室で作成した「静岡の野生酵母図鑑」を配布し、野生酵母の画像と子ども向けの解説を参考にしながら、自分のサンプルにどのような酵母が育っているのかを確認しました。みなさん、一生懸命、顕微鏡をのぞき込んでいました。
さらに、パン生地・酵母入りパン生地・焼いたパン・モルト・クラフトビールを並べ、発酵による香りの変化を体験できるコーナーも設置しました。酵母の種類によって香りが異なることも体験してもらい、微生物が食品に与える影響を五感で理解する貴重な機会となりました。
最後に農学総合棟の見学を行い、研究設備や学生実験室の様子を紹介しました。普段入ることのない大学の施設に、参加者の方々は興味深く見学されていました。
両日ともアンケートを実施したところ、子ども・保護者ともに高い満足度が得られました。井川への関心が高まったという回答や、微生物をはじめとする自然への興味が深まったという声が多く寄せられ、企画の目的であった「地域理解の促進」と「科学への興味喚起」を十分に達成できたことが確認できました。

