大学論を読む(3)
小川洋『地方大学再生 生き残る大学の条件』 朝日新聞出版、2019年3月、810円(税抜き)、272頁
本書は、1.戦前戦後の新卒採用のあり方、2.偏差値から大学ランキング、3.バブル崩壊後に浮かぶ大学・沈む大学、4.地方の大学ー国公立大学、5.地方圏の私大、6.浮かぶ短期大学、7.迷走する大学入試改革、8.消えた2018年問題、9.20年代に何が始まるか、に分けて手短かではあるが簡潔に盛りだくさんの情報を伝えてくれる。
評者に深い関心を与えたのは、地方圏で小規模でありながら大学運営に当たっている私学のさまざまの努力。そこに共通しているのは見事に一致していて、若い学生たちにきちんと基礎、基本の教育を彼/ 彼女らに実践している大学ほど、学生たちが見事に育ち、社会に巣立って行き、その評価が次世代に引き継がれていることである。こうして地域と大学の連携が好循環に進むということである。
次に感心させられたのは、これらの優れた大学のトップたちの姿勢であろう。まず何よりも施策の展開に当たって、大学教職員全体の共通認識として広く知られていることであり、情報の徹底的開示に尽きるということだ。
いま全国の国立大学は日々の改革に追われ、ついにトップダウンこそその生命とばかりに熟慮された方針を多くの構成員によって広く共有されもしないで突如としてトップ方針とされるばかりか中間管理職さえも熟知していないという状況さえ生まれている。
これでは改革は単なる見かけの掛け声と同様に現場からますます遠い存在となってゆくほかないし、地域社会から理解を得られないことは一目瞭然であろう。
まさにこの書物は大学人が学ぶことの多い事例集といってもよいだろう。 (2020年10月7日)