当研究室では光と物質の相互作用を研究する“光物性物理学”という分野の研究をしています。
特に阪東研では、光閉じ込め構造と有機半導体結晶を組み合わせることで新奇な量子光学的現象を発現させる研究を行っています。有機半導体結晶は光-励起子相互作用が強く光学異方性が高いという特徴を持っており、光閉じ込め構造(共振器、光導波路)中で顕著に量子光学的現象が発現する可能性があります。
1.有機結晶Fabry-Pérot微小共振器
Fabry-Pérot共振器と呼ばれる光閉じ込め構造の中に有機結晶を作製し、光と電子励起状態の相互作用であるポラリトンを観測しました。このような系の報告例は他グループでもありますが、本研究の特徴は、誘電体多層膜ミラーを約100 nmの隙間を作るように重ね合わせて共振器構造を作製したことと、その共振器間隙に室温大気圧下で溶液浸透+再結晶化によって有機結晶を極めて簡易的に作製したことです。アントラセン結晶とルブレン結晶で実現し、極めて大きな光-励起子相互作用を観測しました。
- M. Amano, K. Otsuka, T. Fujihara, H. Kondo, and K. Bando
“Slow-light dispersion of a cavity polariton in an organic crystal microcavity”
Appl. Phys. Lett., 120, 133301 (2022).
溶液浸透で作製したアントラセン結晶微小共振器による”遅い光”の分散を位相シフトで観測しました。共振器分散と励起子分散のために、共振器ポラリトン共鳴位置で大きな群屈折率が観測されました。 - Y. Tsuchimoto, H. Nagai, M. Amano, K. Bando, and H. Kondo
“Cavity Polaritons in an organic single-crystalline rubrene microcavity”
Applied Physics Letters, 104, 233307/1-4 (2014).
すぐ下の論文で示した溶液浸透による有機結晶微小共振器作製をルブレン結晶に適用した論文です。ルブレンは有機材料の中ではデバイス応用に向けた研究が加速している材料です。 - K. Bando, H. Nagai, M. Amano, K. Kanezashi, S. Kumeta, and H. Kondo
“Cavity Polaritons in a Single-Crystalline Organic Microcavity Prepared at Room Temperature Using a Simple Solution Technique”
Applied Physics Express, 6, 111601/1-4 (2013).
アントラセン結晶微小共振器を溶液浸透という容易な手法で作製できることを初めて示した論文です。
2.有機ニードル結晶光導波路
自己組織形成するニードル状の有機結晶が、自身の発光を閉じ込め光導波路的にふるまう様子(ニードルの両端で発光が強く出力される)と両端面で光が閉じ込められFabry-Pérot共振器としてふるまう様子を観測しました。(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー結晶で、ニードルの幅はおよそ100 nm~1 μm程度で、長さは10 μm~数百 μm程度です。
- K. Bando, T. Takano, H. Fujii, T. Nakano, D. Makino, S. Kumeta, F. Sasaki, and S. Hotta
“Fabry-Pérot modes and optical waveguide effects in individual thiophene/phenylene co-oligomer nanoneedle crystals”
Applied Physics Letters, 103, 023304/1-4 (2013).
3.有機結晶マイクロリング共振器
数μmの直径を持つリング形状の有機結晶が自己組織的に形成されることを見出し、さらに自身の発光がリング形状の中に閉じ込められる現象を確認しました。このような光閉じ込め構造はリング共振器と呼ばれ、ミラーを必要とせず構造内の界面で全反射が繰り返し起こることで効果的に光閉じ込め構造となります。自然放射光で観測されたこと、さらに有機結晶では極めて高い閉じ込め性能(Q~2000)を実現したことが大きな特徴です。上記のニードルと同じく(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー結晶で、幅と厚みは数百 nmです。
- K. Bando, H. Fujii, K. Mizuno, K. Narushima, A. Miyazaki, F. Sasaki, S. Hotta, and H. Yanagi
“Self-Assembled Organic Crystalline Microring Cavities with High Q-Factors”
ChemNanoMat, 4, 936-942 (2018).
4.有機結晶導波路モード分散と表面プラズモンモード分散の間の反交差的振る舞いの観測
溶液浸透法によるアントラセン結晶微小共振器の作製を応用して、金属ミラーによるアントラセン結晶微小共振器を作製し、アントラセン結晶導波路モードと金属ミラー表面に形成される表面プラズモンモード間の分散関係の反交差的振る舞いを観測することに成功しました。この観測のためにアントラセン結晶成長後に共振器間隙を広げることで空気層を追加挿入し、これによりライトライン外側ではアントラセン結晶導波路モードと表面プラズモンモードが共存する系を人工的に作りました。さらにライトライン外側を観測するために、試料全体をインデックスマッチングオイルに浸しながら角度分解測定する革新的な手法を開拓しました。
- I. Inou, M. Fujimoto and K. Bando
“Anticrossing Behavior in Nanolayered Heterostructures Caused by Coupling between a Planar Waveguide Mode in an Anthracene Single Crystal and a Silver Surface Plasmon Polariton Mode: Implications for Attenuated Total Reflection Spectroscopy”
ACS Appl. Nano Mater., 4, 250-259 (2021).