研究紹介

2024年度の研究概要を紹介します。

D

小野

「フッ化物イオン含有溶液を用いたソルボサーマル法によるアナターゼ型TiO2のエピタキシャル成長」

 

アナターゼ型 TiO2(A-TiO2)は光触媒をはじめとして様々な場面での応用が検討され、その特性を変調するために不純物添加が行われます。その効果の実験的調査は粉末試料で行われることがほとんどですが、より本質的な理解には単結晶やエピタキシャル薄膜を用いた計測が必要です。一方で、そういった計測に十分な大きさのA-TiO2 単結晶を作製する のは困難であり、基本的にはエピタキシャル薄膜が用いられます。ソルボサーマル法による A-TiO2エピタキシャル薄膜作製法は、前駆溶液にフッ化物イオンを添加することによって 非常に簡便・安価な方法でμmオーダーの薄膜を作製できることが特徴です。本研究では当該成長法における結晶成長過程理解および結晶の大型化を目的としています。将来的には単結晶成長への展開や作製した結晶を用いた各種計測の実施、その他応用が目標です。

M2

石原
「簡易的な手法によるゾル溶液からの酸化物ナノシートの高密度製膜」

ナノシートとは厚み方向が1 nm程度、横方向がµmオーダーの広がりを持つ異方性の高い二次元単結晶です。このような構造的特徴から、電子、磁性、光学、熱など、様々なユニークな特性を持ち、次世代の多機能デバイスの開発が期待されており、大きな注目を集めています。現在、2次元ナノシートに基づくヘテロ構造の構築は、高いキャリア移動度、超伝導、人工強誘電体などの特性や、フレキシブルな圧電デバイスへの応用が期待されており、世界的に関心が高まっているテーマです。本研究では、より簡易的に室温においてゾル溶液の液面を制御することにより簡便かつ安価な手法により高密度のナノシートを製膜できる条件を探索することを目的として研究を行いました。

野瀧
「Si(001)基板上へのエピタキシャル成長パイロクロア構造酸化物薄膜の作製と電気特性」

A2B2O7型酸化物は100種類以上報告されています。その中で、パイロクロア構造をもつCd2Nb2O7は典型的な強誘電体であることが報告されています。本研究では、PLD(Pulse Laser Deposition)法を用いてSi(001)基板上にパイロクロア構造酸化物薄膜をエピタキシャル成長させ、配向を制御することにより強誘電体薄膜を得ることを目的としています。中間層にはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、CeO2をバッファ層として用い、下部電極かつシード層として導電性ペロブスカイト構造酸化物を用いています。

鈴木
「蛍石構造バッファ層上への導電性ペロブスカイト構造酸化物の配向性におよぼす格子定数のミスマッチの影響 」

ペロブスカイト構造酸化物は多くの機能を有し、その機能を最大限に発現するためには配向の制御、特に配向の揃っているエピタキシャル成長が重要である。現在のデバイスのほとんどはSi(001)上に作製されている。Si(001)基板上に直接エピタキシャル成長する酸化物の種類は限られており、導電性ペロブスカイト構造酸化物は直接エピタキシャル成長させられないため、バッファ層が用いられてきた。 本研究の目的はYSZ, CeO2/YSZ, NdSZの3種類の蛍石構造バッファ層を形成したSi(001)基板上に種々の導電性ペロブスカイト薄膜を作製し、その配向を調べることを通して、成長の配向性を系統的に明らかにすることにある。

高橋
「鉛蓄電池負極活物質の微構造観察に基づく空隙構造の解析 」

鉛蓄電池を構成する極板は電子の流れる主経路となる格子状の鉛金属で作られる集電体の上に、化学変化によりエネルギーを放出し蓄電する役目をする活物質が充填して構成される。負極活物質は骨格構造と骨格部分の比表面積であるエネルギー構造によって構成されており活物質の電流経路,機械強度の向上といった役割を担っており、電池性能に影響を与えると考えられる。また、負極活物質(NAM)は添加剤によって構造が変化することが知られており、近年ではモノづくりの方法によっても構造が変化することが分かってきた。本研究ではNAM製造時における練合時の回転数によって発生する電池特性の差がどうNAMの構造変化に影響するのか微構造観察を通じて解析することを試みた。

戸塚
「ガラス基板上へ積層構造のTiO2-VO2薄膜の作製とスマートウィンドウ応用」

VO2は68℃で赤外線の透過性が変化し、高温時は赤外線を反射し、低温時は透過する性質を持ちます。従って、VO2薄膜を窓ガラス上に作製することで、自動的に透光性を制御可能なスマートウィンドウとなり、エアコンの消費電力削減が期待されます。しかし、VO2の転移温度の低下とガラス上での高結晶化が課題となっています。そこで、TiO2とVO2を層状に分離させると転移温度が低下します。それを利用し、私は中間層を挟むことでガラス基板上に高性能なTiO2-VO2薄膜を作製することを目指しています。さらに、TiO2-VO2の積層構造は基板表面の構造によって変化し、最も転移温度が低下するように結晶構造を制御可能な新規中間層材料を探求しています。これまで、正確に転移温度測定可能な装置を構築し、単結晶基板上での作製における実験条件を明らかにしました。現在はガラス基板上で高品質な薄膜の実現に取り組んでいます。

森谷
「 フラックス法を用いたLiイオン固体電解質LLZTOの単結晶基板上へのエピタキシャル成長 」

高出力・長寿命の次世代型電池である酸化物全固体Liイオン電池の実用化のために、高いイオン伝導率(10-4~10-3 S/cm)を持つガーネット型固体電解質Li6.5La3Zr1.5Ta0.5O12 (LLZTO)が注目されている。基礎研究および薄膜電池への応用の観点でエピタキシャル薄膜は重要であるが、先行研究はPLD法による報告1例のみであり、Liが大きく欠損した薄膜しか得られていない。これに対して、これまでに我々はLa0.6Zr0.3Ta0.1O1.75 (LaZTO)を出発原料としたフラックス法によってLLZTOバルク小型単結晶成長に成功している。本研究ではこれを単結晶基板上に直用することでLLZTOエピタキシャル薄膜を成長することを目的とした。

M1

石橋
「PLD法によるSi基板上YSZエピタキシャル薄膜の成長に及ぼす捨て膜の効果」

イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の薄膜は固体電解質燃料電池の電解質としての利用や、Si基板上におけるペロブスカイト構造のエピタキシャル薄膜のバッファ層として広く用いられる。Si基板表面には自然酸化膜が存在するが、YSZ薄膜はSiの基板方位を引き継いでエピタキシャル成長することが分かっている。PLD法でYSZ薄膜を成膜する際、経験的に捨て膜と呼ばれる行程が有効であることが知られている。捨て膜とは、薄膜を成膜する際に事前にターゲットに室温、低真空でレーザーを照射して成膜することを指し、その後に別の基板に成膜を行うことでエピタキシャルYSZ薄膜を成膜することができる。本研究では、捨て膜の効果はレーザー照射によるターゲット表面の還元であると考えて調査を行っており、捨て膜によるエピタキシャル成長のメカニズムを明らかにすることを目的としている。

大岡
「逆ペロブスカイト型窒化物Mn3(Ge,Mn)Nの磁気特性評価」

我々は、Mn3(Ge,Mn)Nにおいて特定のMn/Ge組成比の場合に、スピングラス(強磁性相互作用と反強磁性相互作用がランダムに混在する磁性相)が発現すると考えました。先行研究では、本物質の薄膜化に成功しております。一般的に単相での磁気抵抗効果は数%程度ですが、GaN基板上に成膜したものにおいて最大で70 %もの磁気抵抗効果を観測しました。しかし、この大きな磁気抵抗効果の発現の原因の解明には至っておりません。私の研究は、他の基板上への成膜および得られた薄膜との比較により、大きな磁気抵抗効果の発現の原因の解明を行っています。

近藤
「圧電性PSi上2軸配向PZT薄膜を用いた超音波送受信性の高い薄膜作製の試み」

PSi上二軸配向PZT薄膜は、PSi上一軸配向PZT薄膜やSi上PZT薄膜よりも高い圧電性を持つ。超音波受信性を持った圧電薄膜は超音波顕微鏡のプローブに用いられている。現在、プローブはC軸配向サファイア上にZnO圧電薄膜を成膜することで作製している。厚いサファイアに伝播させた超音波を試料に当てているためコストが高いという課題がある。PSi上二軸配向PZT薄膜を超音波顕微鏡に用いることができれば、サファイアではなくPSiを使っているため安価に作製できる。また、PZTは基板に伝播させる必要がなく、薄いPSi基板上に成膜させることでコンパクトなプローブを作製できることが期待できる。本研究ではPSi上二軸配向PZT薄膜を成膜し、分極処理をすることで超音波送受信性を得ることを目的とした。

平口
「MgAl2O4(001)基板上でのBaTiO3薄膜の自発的超格子構造の生成」

これまでペロブスカイト構造を持つ薄膜は成膜の際に1000G以上の磁場を印加、Aサイト過剰(A/B=1.3以上)組成、基板と薄膜のミスマッチが1%未満である場合、薄膜がエピタキシャル成長するという条件を満たした場合、自発的に超格子構造を生成することが明らかになっています。超格子構造を持つことによって常誘電体であるSrTiO3は膜厚方向に格子伸長して強誘電体になることがわかっています。超格子構造を強誘電体であるBaTiO3の分極方向の格子伸長に応用できれば、圧電性や強誘電性の向上が期待できると考えています。しかし、ミスマッチが小さいMgAl2O4基板に直接にBaTiO3薄膜を直接成膜するとエピタキシャル成長しないことがわかっています。本研究ではバッファー層としてCo3O4を導入することでBaTiO3薄膜のエピタキシャル成長に成功しています。現在はMgAl2O4基板上にバッファー層Co3O4を導入し、BaTiO3薄膜が自発的に超格子構造を生成する条件の探索を行っています。

松本
「断面afm法による鉛蓄電池正極材料内部の導電性評価」

鉛蓄電池は自動車用蓄電池などに広く利用されている二次電池である。鉛蓄電池の正極の劣化は鉛蓄電池の寿命に影響すると考えられ、劣化機構を詳細に解明し、長寿命化に繋げることが求められている。正極の劣化メカニズムとしては集電体と電解液(希硫酸)の接触面における腐食層(PbOX)の生成に伴う体積膨張により腐食層内や界面などで亀裂が生じ、内部抵抗の増加や導電パス面積の減少が起こり、電池の性能が低下する。鉛蓄電池の劣化機構の解明のため、腐食層の形成条件を詳細に調査する必要があるが、腐食層と正極活物質は化学組成が近く、識別が困難である。本研究では、絶縁体の腐食層と半導体の正極活物質、ならびに金属の集電体との間の電気伝導率の違いに着目し、AFMを用いた導電率の評価を併用することで腐食層の厚さを評価し様々な条件における腐食層の形成状態を調査している。

村瀬
「スマートウィンドウ応用に向けたVO2の配向制御」

VO2は68℃で相転移し、低温では赤外線を透過し、高温では赤外線を反射するため、スマートウィンドウとしての応用が期待されています。実用化のために相転移温度を室温付近まで低下させる必要がありますが、TiO2(001)基板上にVO2薄膜を成膜することで、c軸方向に圧縮応力が加わり相転移温度を下げることができます。そこで私はガラス上にTiO2を(001)配向させたいと考えています。直接ガラス上にTiO2を成膜した場合(001)配向させることは難しいため、LaNiO3のようにガラス上に成膜したときに配向性を示すバッファー層やそのバッファー層とTiO2の格子定数のミスマッチを小さくするためのバッファー層を導入する必要があります。その候補としてTiO2/MgIn2O4/MgO/BaTiO3/LaNiO3/Glassがあり、現在はMgO単結晶基板でTiO2/MgIn2O4/MgOに取り組んでいます。

山本
「蒸発乾固法による大型酸化物ナノシートの作製」

ナノシートとは、厚み方向が1 nm前後で、横方向は通常数ミクロンの広がりを持つ異方性の高い二次元単結晶です。また、結晶性薄膜の配向制御のためのシード層としても利用できます。代表的なペロブスカイト型酸化物ナノシートとして盛んに研究されているCa2Nb3O10- (CNO) ナノシートは層状化合物の層間を剥離することによって得られます。面内配向したナノシートが得られれば、いかなる基板上でもエピタキシャル配向する万能のシード層が作製できる可能性があります。大型ナノシートを合成することができれば、1枚の大きなナノシートによって基板の広い面積を覆い、高い面内配向性を持つシード層を作り出せると期待されることから、私の研究では、CNOナノシートの大型化を目的として粒成長のための条件を探索し、得られた粒子およびナノシートの評価を行いました。