研究紹介

2023年度の研究概要を紹介します。

M2

杉浦
テーマ 逆ペロブスカイト型窒化物Mn3(Ge,Mn)Nの磁気特性評価

我々は、Mn3(Ge,Mn)Nにおいて特定のMn/Ge組成比の場合に、単一物質にも関わらず交換バイアスを示すことを見出しました。これは、本物質がスピングラス(強磁性相互作用と反強磁性相互作用がランダムに混在する磁性相)である可能性を示唆しています。しかし一般的にスピングラスは極低温で形成する相ですが、本物質では室温まで交換バイアスの発現が確認されました。導体で室温までスピングラス相が安定となる物質は非常に限られており、室温駆動デバイスへの応用だけでなく基礎研究上も興味深い物質です。本研究では、Mn3(Ge,Mn)Nにおける磁気特性の組成依存性の調査と、その薄膜化の試みおよび磁気特性の評価を行っております。

黒田
テーマ ダイナミックオーロラ PLD 法による TiO2-VO2薄膜の作製

層状構造のTiO2-VO2は室温付近で光の透過性が変化し、冬には赤外線を透過、夏には反射するという特性を持ちます。この材料をガラス上に成膜することで、透光性を制御できるスマートウィンドウとなります。しかし従来、層状構造は作製に数十時間単位の加熱が必要とされてきました。この研究では、研究室の独自手法であるダイナミックオーロラPLD法を用いることで、20分という短時間での作製に成功しています。そして現在は酸素分圧等の実験条件を調整することで、スマートウィンドウとしての性能が良いものが出来るよう研究を進めています。
この研究は将来的に室温を保つことで冷暖房の使用率を抑え、エネルギー問題の解決へと繋がるだけでなく、実用化の際リードタイム短縮に貢献できると考えています。

中野
テーマ 層状ペロブスカイト型酸化物ナノシートをシード層とした白金薄膜の配向制御

私の研究の目的はナノシートを用いて白金薄膜の配向制御を行うことです。白金を(001)配向させられるようになれば強誘電体を容易に作製できると期待できます。ナノシートは暑さが数ナノメートル前後であるのに対し横方向の大きさが数ミクロンと異方性の高い二次元単結晶であり、層状化合物の層間を剥離させることにより作製されます。本研究で作製したナノシートは白金に近い格子定数を持つため、白金を蒸着させるとエピタキシャル成長し、(001)配向すると推測されます。本研究で実際にナノシートに白金を蒸着させたところ、(001)配向することが確認されました。

町野
テーマ 貫通型ポーラスシリコン基板上へのYSZ薄膜の作製

私は薄膜 SOFC について研究をしています。SOFC は環境にやさしく効率の高い燃料電池ですが、動作温度が高温で扱いにくいという欠点があります。そこで低温動作させるために SOFC の薄膜化が研究されています。私の研究では貫通型ポーラスシリコンを基板として用いて薄膜を作製しています。貫通型ポーラスシリコンとは表面から裏面まで貫通した孔をもつシリコンで、その孔を通して反応に必要なガスを取り込もうと考えています。この研究が成功したら低温で動作する SOFC がより簡単で安価に作製できるようになります。

M1

石原
テーマ ポーラスアルミナの孔を用いた垂直磁気異方性を有するマグネタイト薄膜作製の試み

私の研究テーマは、ポーラスアルミナの孔を用いた垂直磁気異方性を有するマグネタイト薄膜作製の試みです。ポーラスアルミナとは、表面から裏面まで貫通した孔を有し、その孔を通して気体や液体を濾過する際に、粒子や微生物を除去するメンブレンフィルターとして用いられてきました。マグネタイト薄膜の磁化容易軸は一般的に面内方向にありますが、ポーラスアルミナの縦に長い孔の中にマグネタイト微粒子を充填することができれば孔内のマグネタイト微粒子が直線状につながり、垂直磁気異方性が生じるのではないかと予想しました。本研究では、この予想が正しいか明らかにすることを目的として行いました。

鈴木
テーマ 蛍石構造バッファ層上への導電性ペロブスカイト構造酸化物の配向性におよぼす格子定数のミスマッチの影響

ペロブスカイト構造酸化物は多くの機能を有し、その機能を最大限に発現するためには配向の制御、特に配向の揃っているエピタキシャル成長が重要である。現在のデバイスのほとんどはSi(001)上に作製されている。Si(001)基板上に直接エピタキシャル成長する酸化物の種類は限られており、導電性ペロブスカイト構造酸化物は直接エピタキシャル成長させられないため、バッファ層が用いられてきた。 本研究の目的はYSZ, CeO2/YSZ, NdSZの3種類の蛍石構造バッファ層を形成したSi(001)基板上に種々の導電性ペロブスカイト薄膜を作製し、その配向を調べることを通して、成長の配向性を系統的に明らかにすることにある。

高橋
テーマ 鉛蓄電池負極活物質の微構造観察に基づく空隙構造の解析

鉛蓄電池を構成する極板は電子の流れる主経路となる格子状の鉛金属で作られる集電体の上に、化学変化によりエネルギーを放出し蓄電する役目をする活物質が充填して構成される。負極活物質は骨格構造と骨格部分の比表面積であるエネルギー構造によって構成されており活物質の電流経路,機械強度の向上といった役割を担っており、電池性能に影響を与えると考えられる。また、負極活物質(NAM)は添加剤によって構造が変化することが知られており、近年ではモノづくりの方法によっても構造が変化することが分かってきた。本研究ではNAM製造時における練合時の回転数によって発生する電池特性の差がどうNAMの構造変化に影響するのか微構造観察を通じて解析することを試みた。

戸塚
テーマ ガラス基板上へ積層構造のTiO2-VO2薄膜の作製とスマートウィンドウ応用

VO2は68℃で赤外線の透過性が変化し、高温時は赤外線を反射し、低温時は透過する性質を持ちます。従って、VO2薄膜を窓ガラス上に作製することで、自動的に透光性を制御可能なスマートウィンドウとなり、エアコンの消費電力削減が期待されます。しかし、VO2の転移温度の低下とガラス上での高結晶化が課題となっています。そこで、TiO2とVO2を層状に分離させると転移温度が低下します。それを利用し、私は中間層を挟むことでガラス基板上に高性能なTiO2-VO2薄膜を作製することを目指しています。さらに、TiO2-VO2の積層構造は基板表面の構造によって変化し、最も転移温度が低下するように結晶構造を制御可能な新規中間層材料を探求しています。これまで、正確に転移温度測定可能な装置を構築し、単結晶基板上での作製における実験条件を明らかにしました。現在はガラス基板上で高品質な薄膜の実現に取り組んでいます。

野瀧
テーマ ガス透過型ガスセンサーによる分子量の異なるVOCの分離検出の試み

乳がん患者の呼気中には健康な人と比べて5~10倍程度のVOC(揮発性有機化合物)が含まれているため、呼気中のVOCの組成分析をすることで乳がんの早期発見ができると期待されている。半導体ガスセンサーは安価で機動性が高いが、全てのVOCに対して同様に電気抵抗が変化する(ガス選択性が低い)という問題点を持つ。直径15nm程度の細孔を有する多孔質基板の表面にニッケルフェライト薄膜を作製し、裏側からVOCを供給すると、VOCが細孔を透過して表面に到達して抵抗値の変化として検出される時間は分子量の平方根に比例する。すなわち、半導体ガスセンサーにガス選択性を付与することができるのではないかと考えた。本研究の目的は細孔透過型VOCセンサーを作製し、乳がんの早期発見に道を開くことにある。

森谷
テーマ フラックス法を用いたLiイオン固体電解質LLZTOの単結晶基板上へのエピタキシャル成長

高出力・長寿命の次世代型電池である酸化物全固体Liイオン電池の実用化のために、高いイオン伝導率(10-4~10-3 S/cm)を持つガーネット型固体電解質Li6.5La3Zr1.5Ta0.5O12 (LLZTO)が注目されている。基礎研究および薄膜電池への応用の観点でエピタキシャル薄膜は重要であるが、先行研究はPLD法による報告1例のみであり、Liが大きく欠損した薄膜しか得られていない。これに対して、これまでに我々はLa0.6Zr0.3Ta0.1O1.75 (LaZTO)を出発原料としたフラックス法によってLLZTOバルク小型単結晶成長に成功している。本研究ではこれを単結晶基板上に直用することでLLZTOエピタキシャル薄膜を成長することを目的とした。