研究紹介

2025年度の研究概要を紹介します。

M2

石橋
「 かご型結晶12CaO・7Al2O3の水蒸気吸収現象と構造変化 」

私の研究内容はマイエナイト(C12A7)の水蒸気吸収現象および特性変化の調査である。C12A7はかご型構造をとり、包接イオンを置き換えて既存材料より安価な透明電極として応用が可能である。しかし、水蒸気吸収による重量変化が報告されており、電気的特性等に悪影響を及ぼすことが考えられるため、応用への妥当性を検討するための吸収メカニズム解明と特性の定量的評価が本研究の目的である。これまではXRDやラマンスペクトル等の分析を組み合わせ、結晶構造や結晶内に含まれる結合・イオンの特定を行ってきた。類似構造を持つ別物質の反応を参考にして考察し、取得したデータと矛盾がないことを確認することで、理論と測定の両面から妥当だと考えられる反応メカニズムを導くことができた。その結果、水分子が吸収された後にプロトン交換が起こっていることが示唆された。今後は電気特性の測定を行い、実用上の問題や新しい応用について検討する。

近藤
「 超音波顕微鏡の解像度向上を目指したチタン酸ジルコン酸鉛厚膜の作製 」

超音波顕微鏡は、超音波を用いて物体内部を非破壊で観察できる装置であり、医療分野では組織診断、工業分野では半導体の欠陥検査などに幅広く応用されている。現在、超音波の発生には酸化亜鉛(ZnO)が多く用いられているが、ZnOは圧電定数が低く、音波の伝播にはサファイアなどの導波体が必要となる。また、導波体の精密な加工には高コストがかかるという課題がある。そこで、圧電定数が高いチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)厚膜を超音波顕微鏡に用いることができれば、導波体が必要なく、安価かつコンパクトなプローブが製造できる。本研究の目的は電気泳動堆積法(EPD法)でSi基板上にPZT厚膜を作製し、分極処理をすることで超音波送受信性を得ることを目的とした。

平口
「 ダイナミックオーロラPLD法によるシリコン基板上への自発生成超格子構造を有する (Ba,Sr)TiO3薄膜作製 」

ダイナミックオーロラPLD法はターゲットと基板間に電磁石を設置することによりプラズマを活性化させることのできる方法であり、成膜時に磁場を印加することにより非平衡性を高めることが可能です。これまでに、成膜時の磁場の印加によりバルクでは生じないスピノーダル分解を誘起させることが可能で、これにより自発的に超格子構造が生成することがわかっています。この方法で SrTiO3(001)単結晶基板上にエピタキシャル成長させたAサイト過剰組成を有するSrTiO3薄膜がバルクでは示さない強誘電性を示すことが明らかになっています。しかし、基板として高価で特殊性な単結晶を用いていたのではデバイス応用に発展させることができません。そこで、汎用性が高く半導体プロセスで広く用いられているSi(001)基板に用いることで、その上に強誘電性を有するSrTiO3や(Ba,Sr)T1O3薄膜 を作製することが目標です。

松本
「 断面AFM法による鉛蓄電池正極材料内部の電気特性評価 」

鉛蓄電池は自動車用蓄電池などに広く利用されている二次電池である。鉛蓄電池の正極の劣化は鉛蓄電池の寿命に影響すると考えられ、劣化機構を詳細に解明し、長寿命化に繋げることが求められている。正極の劣化メカニズムとしては集電体と電解液(希硫酸)の接触面における腐食層(PbOX)の生成に伴う体積膨張により腐食層内や界面などで亀裂が生じ、内部抵抗の増加や導電パス面積の減少が起こり、電池の性能が低下する。鉛蓄電池の劣化機構の解明のため、腐食層の形成条件を詳細に調査する必要があるが、腐食層と正極活物質は化学組成が近く、識別が困難である。
本研究では、絶縁体の腐食層と半導体の正極活物質、ならびに金属の集電体との間の電気伝導率の違いに着目し、AFMを用いた導電率の評価を併用することで腐食層の厚さを評価し様々な条件における腐食層の形成状態を調査している。

村瀬
「 スマートウィンドウへの応用に向けたVO2の相転移温度制御 」

VO2は温度によって赤外線の透過性が変化するため、VO2薄膜を窓ガラスに成膜することで、季節に応じて自動で透光性を調節できるスマートウィンドウが実現し、エアコンの消費電力が削減できるのではないかと期待されています。しかし、VO2の相転移温度は68℃と高く、この温度を室温付近まで下げることが求められています。 既往の研究でTiO2(001)単結晶基板上にVO2薄膜を成膜すると、基板との格子定数の違いによりc軸方向に圧縮応力が発生し、膜厚に応じて相転移温度が低下するということと、FTOガラスに水熱合成法を用いることで、TiO2が(001)配向になることが報告されています。そこで私はFTOガラス上に水熱合成法で(001)配向のTiO2膜を成膜し、この上にPLD法でVO2薄膜を成膜することで、相転移温度の低下を目指す研究を進めています。

山本
「 蒸発乾固法による大型酸化物ナノシートの作製 」

ナノシートとは、厚み方向が1 nm前後で、横方向は通常数ミクロンの広がりを持つ異方性の高い二次元単結晶です。また、結晶性薄膜の配向制御のためのシード層としても利用できます。代表的なペロブスカイト型酸化物ナノシートとして盛んに研究されているCa2Nb3O10- (CNO) ナノシートは層状化合物の層間を剥離することによって得られます。面内配向したナノシートが得られれば、いかなる基板上でもエピタキシャル配向する万能のシード層が作製できる可能性があります。大型ナノシートを合成することができれば、1枚の大きなナノシートによって基板の広い面積を覆い、高い面内配向性を持つシード層を作り出せると期待されることから、私の研究では、CNOナノシートの大型化を目的として粒成長のための条件を探索し、得られた粒子およびナノシートの評価を行いました。

M1

影林
「 PLD法によるSi(001)基板上への(001)配向7%YO1.5-93%HfO2薄膜の作製 」

フラッシュメモリやEERROMは高電圧をかけてONとOFを切り替えるのに対し、F強誘電体メモリは、強誘電体の分極反転を用いてONとOFFを切り替えます。この仕組みにより、強誘電体メモリは低消費電力、高書き換え回数、高書き換え速度であるという特徴があります。しかし、現在用いられている強誘電体材料は、膜厚が薄くなると、残留分極の値も小さくなるため、微細化が困難です。HfO2は膜厚が薄くても安定的に残留分極の値を示すため、強誘電体メモリ材料として期待されています。直方晶は準安定相であり、安定化のために、様々なドーパントが試されていますが、その中で最大の残留分極の値を示すYをドープします。現在作製されているHfO2薄膜は(111)配向が多く(001)配向はあまりありません。さらにSi基板上に作製された報告も少ないです。そのため私は、Si(001)基板上への(001)配向7%YO1.5-93%HfO2薄膜の作製を目標に、PLD法を用いて実験を行っています。

柴田
「 Si基板上へのCaMnO3薄膜のエピタキシャル成長 」

Si基板上にエピタキシャル成長させたペロブスカイト構造酸化物の配向性マップにおいて、これまでの研究では格子定数のミスマッチが-0.58%のSm₀.₅Sr₀.₅CoO₃が(001)配向で成長する最小格子定数の材料とされていた。そこで本研究では、-2.6%とより大きな格子定数のミスマッチでてあるCaMnO₃に着目し、Si基板上にCeO₂/YSZバッファ層を介して成膜を行った。作製した薄膜がペロブスカイト構造のCaMnO₃であり、(001)配向でエピタキシャル成長していることを確認し、配向性マップの適用範囲を拡張した。現在は、ミスマッチを小さくするためバッファ層を変えてCaMnO3の自発的に超格子構造を持つ薄膜の作製を目指し研究を行っている。

髙見
「 スパッタ法によるアモルファスNa-Nb-O薄膜の作製とイオン伝導率測定 」

現在、携帯端末やEV,PHV,HVなどの電動車などの分野で軽量かつ高エネルギー密度であるLiイオン二次電池が幅広く使用されている。今後は再生可能エネルギーの出力安定化や発電所の稼働平準化を進めるため大型・定置型の二次電池が大量に必要となる。資源量が少なく資源が偏在しているLiに比べNaは安価で資源が豊富にあるため、長寿命で安全性が高いNaイオン全固体二次電池の実用化が期待されている。全固体二次電池では、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗が増大する課題があり、対策として緩衝層を挿入して界面抵抗を低減している。本研究の目的は、Naイオン全固体二次電池の緩衝層の候補となる材料を作製してイオン伝導率を測定することで、全固体二次電池の界面抵抗を抑制できる材料の探索をすることである。


「 かご型結晶12CaO・7Al2O3へのカリウムドーピングと固溶領域の調査 」

新規酸化物透明電極や高効率アンモニア合成触媒としての応用が期待されている12CaO・7Al2O3(C12A7)は、その単位胞中に正に帯電した12個のかごと、かご構造の正電荷を補償するための2つの自由酸素イオンがかご内に緩く包接されている。この包接種は様々な陰イオン種(e、H等)に置き換えが可能で、イオン種の置換により様々な特性が発現する。現在、C12A7のかご骨格は正の電荷を持つが、骨格の電荷をCa2+サイトにKで置換することにより負にすることができれば、アニオンではなくLi+やNa+、K+といったアルカリ金属を包接することができると考えられ、安価でかつ高イオン伝導率を示す新たなイオン伝導性物質としての応用が期待される。しかし、安定したK固溶を行うことが難しいという課題がある。そこで本研究では原料の添加方法や焼成中の雰囲気を制御することで安定したK固溶C12A7の合成を目標としている。

町野
「 固体電解質LLZTOエピタキシャル薄膜の自立化に向けたガーネット型バッファ層の作製 」

高出力・長寿命の次世代型電池である酸化物全固体Liイオン電池の固体電解質には高いイオン伝導率(10^-4~10^-3 S/cm)を持つLi6.5La3Zr1.5Ta0.5O12(LLZTO)が注目されています。基礎研究および薄膜電池への応用の観点から大面積を有する自立型エピタキシャル薄膜は重要です。現在、自立型固体電解質薄膜の多くはテープキャスティング法により作製されています。しかし、この方法では膜厚を薄くすることが困難であるためエネルギー密度の向上が課題となっています。そこで、単結晶基板上に犠牲層を導入しLLZTOを成膜した後に犠牲層を除去することでLLZTOを自立型エピタキシャル薄膜として得るという手順を考えています。犠牲層の研究自体は多く進められていますが、LLZTOと同じガーネット構造を有する犠牲層の報告例は一件もありません。また、LLZTOはガーネット構造上にのみエピタキシャル成長することが先行研究により分かっています。そこで私の研究は、ガーネット構造を有する犠牲層材料の探索に取り組んでいます。

丸山
「 C12A7の高温水蒸気吸収現象に関する研究 」

12CaO・7Al2O3はカルシウムアルミネート系化合物の一つでC12A7と略されます。C12A7は12個のかごを有するかご形構造をしており、C12A7のかご骨格は正に帯電しており、かご骨格の正電荷を補償するように自由酸素イオンが包接されています。このC12A7を大気中でTG測定を行った結果、重量変化が2回起こることが分かっています。そのうちの1つは理由が分かっていますが、もう一つの重量変化については水蒸気の吸収・脱離に関係していることが示唆されていますが、明確な理由は分かっていません。C12A7の水蒸気の吸収・脱離に関する重量変化の原因をX線回折などの構造解析から考察していくというのが私の研究テーマになります。