植物‐植食者‐捕食者の生物間相互作用
ふだんの生活で虫と出会うことはたくさんありますね。とくに気にしていなくても、公園などの草むらで虫を見つけたり、家の中にも入ってきて出会うことがあるかもしれません。ではなぜその虫はそこにいるのでしょうか。
生物は環境や他の生物と互いに関わりあって暮らしています。ある生物がどこにどのくらいいるか(分布と存在量)には、その生物と環境、および他の生物との相互作用が関わっています。生き物がどのような暮らしをしているのか、そしてどのように相互作用しているのかを細かく見ていくことで、生き物がそこにいる理由がわかることがあります。また、生き物はそれぞれに何かを感じて、それぞれに違った世界の中に生きています。生き物の生態を知り、さらに生き物の感覚や記憶の能力について知ると、その生き物にとっての置かれた環境の意味がわかってきます。
天敵昆虫の餌探索に関わる植物由来のシグナル
植物は害虫などに食べられたとき、健全時とは異なるにおい(植食者誘導性植物揮発物質、Herbivore-Induced Plant Volatiuiles; HIPVs)を放出します。 この食害時に特異的なにおいであるHIPVsに植食者の天敵が誘引されることが多くの植物と昆虫の系で明らかにされています。 植物が天敵の助けを借りて植食者を撃退する場合があり、HIPVsはSOSシグナルとも呼ばれています。 例えば、下の写真にある天敵寄生蜂(ギフアブラバチ)は、寄主であるムギヒゲナガアブラムシが食害するコムギのにおいに誘引されます(Takemoto 2016)。 天敵寄生蜂にとって植物のにおいは寄主を発見するための重要な手がかりとなっています。
天敵寄生蜂(ギフアブラバチ Aphidius gifuensis) | ムギヒゲナガアブラムシ Sitobion akebiae |
シグナル応答に関与する天敵寄生蜂の学習と記憶
寄生蜂はどんな場合でも食べられている植物のにおいに誘引されるわけではありません。幼虫から成虫になるまでや成虫になってからにおいを経験して初めて応答できるようになるような、学習が関わっていることもあります。私たち人間が信号機(シグナル)の意味を学習して初めてわかるようになるのと同じです。
食べられた植物のにおいは植物や食べている虫の種類などによって異なります。とくにいろいろな種類の植物や植食者を餌とする捕食者にとっては、においはものすごく多様になります。においを学習して応答するしくみはそのような多様性に対処することに役立っていると考えられます。
これまでの研究で、逆に意味のないにおいを経験することも、においのシグナルへの応答に関わっていることがわかりました(Takemoto and Yoshimura 2020)。
虫について学ぶことの人間発達的意義
虫は人間とは全く違った論理で生きています。そのことを知ると、人間や人間社会も違って見えてきます。虫たちがまわりの生き物やモノと関わりあって生きているように、私たちもまわりの生き物とつながっています。そのような広い見かたはどのように得られ、どのような役に立つか、実践的研究を行って調べています。